コラム

「障がい差別社会」に移民受け入れの覚悟はあるか?

2015年11月24日(火)15時20分

 上記に寄稿された複数の先生方と話す機会に恵まれましたが、私の専門である経済的観点としては、社会的弱者を排除しない、格差や不平等の是正に取り組む必要性を強く掲げるしかない、といった指摘しかできませんでした。多文化共生の課題のなかで避けて通るべき問題ではないとの見解は、分野が違えど共通認識であることを確認しました。

 これまたワタクシごとで恐縮ですが、70年代の後半米国の西海岸の小学校に通っていた時代がありまして、アルファベットも書けない、英語など一言も理解できないまま現地の小学校に放り込まれました。今でもそうした手厚いサポートをする余裕が米国にあるのかはわかりませんが(なくなってしまったため極端な格差社会になったのかもしれません)、3人しかいなかった日本人のために特別クラスを毎日午後に設定してくれ、専門の教員を1人付けるなど、外国人への特別な配慮をしてくれたものです。言葉がわからない我々は社会的弱者ですが、その我々にそこまで手厚いサポートをする。

 日本が移民を受け入れる場合でも彼らを社会的弱者にしないためにはどうしたらよいのかとの配慮は当然必要です。移民としてやってきた子供たちが教育を受け、日本語が話せるようになるまで、就職できるまで、そして日本国に税金がしっかり納められるようになるまでサポートする必要があり、その社会的コストは移民ではない日本人の何倍にも及びます。そうした負担を引き受ける覚悟や準備が我々に出来ているのか?

 既出の平成24年版子ども・子育て白書を見ていただければ、欧州諸国に比べて我が国の家族政策全体への財政的な規模が小さいことがわかります。フランスなどは家族政策に関係する予算が対GDP比で3%台であるのに対して、日本はわずかその1/4。社会保障給付の国際比較をした際に、同じような経済力を持つ各国に比べて日本の社会保障が現状ですら非常に手薄であるのに、これから移民を受け入れた場合にその社会的コストを考慮するまでに至るのかは甚だ疑問です。

 社会的弱者の問題で言えば、国際比較からみた日本の貧困は、無職によるものではなくワーキングプアが高いのも特徴で、特に子どもがいる現役ひとり親世帯の貧困率はOECD諸国の中でも断トツの悪さの58.7%。しかも税金や社会保障費などを支払い、児童手当など政府からの給付を受ける前と後(再分配前と再分配後)では日本は再分配後の方が子どものいる世帯の貧困率が増してしまうという、ありえない事態になっているのはもう何年も前からOECDを筆頭に専門家から指摘されている点でもあります。政府の再分配が機能してないままいくら消費税を増税して社会保障にといっても現実味を帯びてはきません。増税ありきで再分配の充実にはほとんど目が向かない実情も消費税に反対する理由の1つです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

世界の大富豪の財産相続、過去最高に=UBS

ワールド

米政権、燃費規制緩和でステーションワゴン復活の可能

ビジネス

中国BYD、南アでの事業展開加速 来年販売店最大7

ワールド

インド中銀、0.25%利下げ 流動性の供給拡大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story