コラム

ブレグジットで激変する海上輸送、ウェールズ港没落はイギリス解体の予兆なのか?

2021年04月02日(金)13時30分

別の会社、DFDS Seaways社は、ロスレールからダンケルク(フランス)への新しい航路を開設した。これでヨーロッパの中心部へのアクセスが簡単になる。

同社によると、この航行は24時間弱かかるが、週6便はほとんど常に予約でいっぱいだという。4月1日からは新たにもう1隻、4隻目のフェリーが追加されるとのこと。

アイルランドのロスレール・ユーロ港によると、アイルランドから北フランスへの航路は、現在週36便。前年の12便から3倍も増加している。

さらに、ヨーロッパ本土との貨物輸送量は、昨年2020年と比較して、1月には約446%の伸びという、驚異的な増加を示している。

フェリーに乗せるトラックの予約は、運転手付きも無しも、両方需要が増えているという。

ウェールズの港の破綻的状況

この状況に反比例するように、ウェールズの港は危機的状況に陥っている。

BBC(英語版)は「アイルランドからウェールズへの貿易フローは、1月から破綻している」とまで書いている

ダブリンの対岸にあるホリーヘッド港への貨物は、2月には相対的に5割、南西部では4割が減少したという。

これにはもう一つ原因がある。

北アイルランドからの貨物の減少である。

北アイルランドは英国領である。今までは対岸のブリテン島(イングランド・スコットランド・ウェールズ)に貨物をおくるのに、陸路を南下して一度アイルランド国に入り、海をわたって英国ウェールズのホリーヘッド港等に入るのが常だった。

しかしこれだと、一度EU域内(アイルランド)に入ってから英国に入ることになり、税関手続きが生じてしまう。

そのため、北アイルランドから直接、ケイルンライアン(スコットランド)やリバプール行きのフェリーを利用するようになったのだ。これなら「英国内の移動」ですむからだ。

今までは1年間で約15万台が、アイルランドから英国へ渡るルートを取っていた。1日にすると約410台になる。

こうしてウェールズの港は、アイルランドからだけではなく、北アイルランドからの貨物輸送も失ってしまったのだ。

危機感をつのらせるウェールズ政府

大きなショックを受けたウェールズ政府は3月、緊急に新たな計画を発表した。

英国政府とアイルランド政府は協力して、手続きをシンプル化するために努力すること、その内容を具体的に説明して取引業者に配るために、特注の資料やガイダンスパックを開発することを求めている。

このまま何の変化もなければ、最悪の場合、フェリー会社がサービスを永久に打ち切る可能性があり、「最終的には、関連港の存続、港に関連する地元の雇用、および関連地域とその周辺における将来の機会を脅かすことになる」と、計画書は述べている。

これから英国側が巻き返しをはかっても、どのくらい顧客が戻ってくるかは、かなり疑問だ。

アイルランドやフランスの港の需要が増えれば、収益が上がり競争が生まれる。最新の設備を導入し、サービスは向上し、価格も安くなる可能性がある。

新たな流れが固定してしまう前に、どのくらいの素早さで英国政府が対応できるか、あるいは、どれほどジョンソン政権に素早く真剣に行う気持ちがあるかどうかが、一つのポイントとなるだろう。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story