コラム

2024年、SNSプラットフォームが選挙を通じて世界を変える

2024年03月15日(金)15時40分

民間企業を利用して世界を変える権威主義国

SNSや検索サービス提供しているビッグテックは、基本的には利益を追求する民間企業であり、「現地の法律を遵守する」ことを言い訳にして当局の監視や検閲を手伝うことがある。また、経済的な便益を優先して、選挙関連の情報提供をコピペで済ませ、時には誤った情報を掲載することもある。モデレーションが適切でないことも少なくない。

その一方で、社会のインフラとして人々がこれらのサービスに依存していることも事実だ。選挙を始めとする活動や災害時の連絡に大きな影響を与えるにもかかわらず、法的、制度的な規制はほとんどなく、中国の検閲がアメリカのBingでも行われている状態だ。

民主主義国でこうした事態に対応するためには、EUのように時間をかけて合意を形成し、法制度を整備し、実行しなければならない。これに対して中国などの権威主義国では時間のかかるプロセスを飛ばして必要な措置を実行できる。民間企業が関係国の法制度に従う場合、対応の早い権威主義国の法制度に先に従うことになる。この非対称性によって、法制度を遵守しようとする民間企業は権威主義国の制度に早く対応することになる(なぜなら早く法制度が施行されるから)。一方、民主主義国には実質的な法制度の整備が権威主義国よりも遅れる構造的な問題がある。

2011年から2022年の間に78カ国で制定された105の偽情報対策法の多くが、権威主義国で言論の抑圧を目的としていることがこの問題を象徴している。法制度の整備に比例して、この法律に違反して投獄されたジャーナリストが増加している。

newsweekjp_20240315055803.jpeg

(出典:「Chilling Legislation: Tracking the Impact of "Fake News" Laws on Press Freedom Internationally」Center for International Media Assistance CIMA、2023年7月19日、https://www.cima.ned.org/publication/chilling-legislation/)


 

2024年は世界人口の半分以上が投票を行う選挙の年であり、インド、インドネシア、アメリカなど注目されている選挙も多い。民主主義国の民間企業が、意図せず世界を変えるのを目の当たりにするかもしれない。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルのソマリランド国家承認、アフリカ・アラブ

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story