コラム

2024年世界選挙の年、世界のあり方が変わるかもしれない

2024年01月10日(水)17時25分

民主主義国が周回の遅れの対策を練っている間に......

表全体をざっとご覧いただくとわかるように、共通化されたTTPsの多くは現在の政府やSNSプラットフォームの対処方法では対処できない。たとえばEUのDSA法は巨大プラットフォームを対象としているため、小規模SNSやメッセンジャーは対象外だ。法律が施行される頃にはその効果がなくなっているよい例になってしまった。また、アメリカは国内テロに対してはさまざまな規制や組織が用意されているが、国内のグループには有効な規制や組織は充分ではないという問題もある。他の国でも同様の問題がある。影響工作に当たって相手国の国内の反主流派と連携するのは非常に効果的なのだ。相手国の勢力を利用することで否認可能性(deniability)を高めることができる。関与が疑われた時に、そっちの自国内の問題だと突き放しやすい。実際、問題の大半は自国内の問題なのでやられた側は反論しずらい。


現在欧米の多くの政府が取っている情報戦、認知戦への対抗策は、国内問題と国内勢力を利用されることで無力化されつつある。

こうなることは5年前の2019年からわかっていたので国内への対処がなければ意味がないことをさんざんかいてきたが、驚くほど反応はなかったのでいまさらこういう報告がアメリカ国家情報会議などから出てきてため息しかでない。

全体的に選挙を守る側の対処が遅れている状況に追い打ちをかけるのが、アメリカの対策の後退だ。以前の記事でご紹介したようにアメリカの対策は後退しており、SNSプラットフォーム各社は対策要員を削減している。

対策の後退も国内対策の欠落から起きている。偽情報やデジタル影響工作あるいは認知戦が相手国の脆弱な部分を狙いうちするものである以上、脆弱な部分への対処がなければ効果は期待できない。その結果、前回の記事のようなハイブリッド内戦リスクを増大させる事態となっている。海外からの干渉がなくてもちょっとした火種があれば燃え上がる。

ちなみに前掲のアメリカ国家情報会議は国家情報長官室(ODNI)が中心となり、国土安全保障省、CIA、NSAなどのインテリジェンス・コミュニティのメンバーが参加しており、資料の冒頭に外国からの脅威を評価することが任務であり、国内については対象としないとはっきり書いてある(ただし、中露伊がアメリカ国内のアクターと連携していることはきっちり把握し、評価している)。状況がわかってきても改善されない/できないことを物語っている。日本も同じ道をたどっているので、このまま進めば国内から崩壊してゆく。2024年は新しい世界の訪れを実感する年になるのかもしれない。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向

ビジネス

再送MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story