コラム

デジタル紛争の新たなステージ:イスラエルとハマスの情報戦が示すサイバー戦の進化

2023年11月07日(火)14時11分

・どちらかの当事国に対して支持の表明あるいは逆に批判や制裁を行った国に対してサイバー攻撃が行われ、全世界規模に広がる

サイバー攻撃は当事国だけでなく、関係国あるいはハクティビストなどの非国家アクターが行う。ウクライナ侵攻においても、ロシアへに制裁に加わった国などにサイバー攻撃が行われた。今回も同様のことが起きる可能性が高い。

サイバー攻撃は政府が直接手をくだすとは限らず、プロキシを利用したり、ハクティビストが実行したりすることがある。そして、どこからが政府支援によるものかは判別が難しい。

・陰謀論者や白人至上主義者、差別主義者などが参加する

今回の紛争が始まると、トランプ前大統領はハマスが南の国境を越えてアメリカに入ってきたと言い出し、バイデンとオバマのせいだという主張を始めた。

イスラエル政府は、ハマスの攻撃を事前に知っていたという陰謀論が、#BibiKnewというタグで広まっている。この陰謀論を広めていると考えられているチャーリー・カーク(本人は否定している)は大学に特化した共和党の全国的なグループを率いている。

アメリカの白人至上主義者のグループは反ユダヤ主義をかかげており、ハマスの攻撃開始を祝った。

また、右派の中には、ハマスの潜伏工作員という新たな脅威を利用して、イスラム恐怖症を煽ろうとしている者もいる。

陰謀論者や白人至上主義者など一見すると、つながりの薄いグループが関与してくる理由は、後述するメカニズムのためと考えられる。イデオロギーや信念でつながるのではなく、現状に対する否定や被害者意識でつながっている。

以前の記事「タリバンのネット世論操作高度化の20年の軌跡」からの抜粋をご紹介する。

「タリバンのアフガニスタン征圧は、ネオナチや極右ユーチューバー、右派のプラウドボーイズ、ホワイトナショナリストなどから賞賛され、「我々ももっと大きなことができるはずだ」といった過激派の野望に火をつけた。(中略)タリバンと過激派の主張は、女性への差別、LGBTQへの敵意、中絶への反対、原理主義的な宗教政府への支持など、いくつかの点で一致している。どちらも欧米の社会的進歩が文化や政治的の堕落の原因であると考え、その原因を作った民間や政府の団体および人物に対して深い恨みを抱いている」

・関与した国で当事国に関するデモや抗議活動、暴力行為などが起こる

すでに多くの国は国内に火種となり得る問題をいくつも抱えており、なんらかのきっかけでそれに火がつく。紛争でどちらかを支持したり、制裁措置を行った国の国内でデモ、抗議活動、暴力行為が起きやすくなる。たとえばヨーロッパ最大のユダヤ人人口を抱えるフランスでは、数千人が政府によるハマス支持の集会禁止を無視してパリに集まり、警察は催涙ガスと放水銃で彼らを解散させた。イギリスでは先週、反ユダヤ主義的な事件が急増した。その背景には近年ヨーロッパに広がっているユダヤ人に対する反感がある。

本誌ウェブでもアメリカのパレスチナ支持集会を襲撃しようとした事件やパレスチナ系少年がアメリカで刺殺された事件などを掲載している。筆者が住んでいるバンクーバーでもパレスチナ支持の集会が行われているのを見たことがある。

ichida20231107bb.jpg

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 7棟の捜

ワールド

プーチン氏、一部の米提案は受け入れ 協議継続意向=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 9
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 10
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story