コラム

台湾併合をみすえて暗躍する中国国家安全部

2023年06月13日(火)14時07分
習近平

2012年以降、中国は世界でもっとも多くの脆弱性を悪用した攻撃を行っていると言われている...... REUTERS/Florence Lo

<2012年以降、中国は世界でもっとも多くの脆弱性を悪用した攻撃を行っていると言われている。その実態は......>

他国を圧倒する中国サイバー部隊の規模とゼロデイ脆弱性

中国やロシアが世界各国に対してサイバー攻撃を仕掛けていることはよく知られている。中国のサイバー能力は近年急速に向上し、総合的な力ではアメリカに劣るものの、特定の能力ではアメリカを上回るまでになったと言われている。

たとえば中国はアメリカ国内のインフラ対して効果あるサイバー攻撃を行えることが、国家情報⻑官室の2023年年次脅威評価で指摘されている。また、昨年のアメリカの米中経済・安全保障調査委員会(USCC)で中国の知財窃取やスパイ活動などが報告され、想像以上の実態が明らかにされた。そこで強調されていたのは中国のサイバー攻撃の規模と保有している脆弱性情報だ。脆弱性とはソフトウェアなどに存在するバグのようなものであり、悪用することでシステムを乗っ取ったり、破壊したりできる。中でも深刻なのはゼロデイ脆弱性と呼ばれる未報告の脆弱性だ。ソフトウェアの開発元や関係機関に報告されていないので、防御措置が存在しない。この脆弱性を狙った攻撃に対しては対抗手段が限られるためきわめて危険である。ゼロデイ脆弱性はサイバー攻撃の重要な原材料、いわばプルトニウムのようなものと言える。中国はこの脆弱性情報においてアメリカを凌駕し、世界をリードしている可能性が高いとされている。

アメリカのIT企業の多くは自社製品の脆弱性を発見してくれた個人や団体に報奨金を支払っている。2021年、アメリカ企業が報奨金を支払った相手の85%がアメリカ以外の研究者だった。アメリカ国内の研究者は15%で、中国はアメリカに次いで10%となっている。実際にはもっと多くのゼロデイ脆弱性を保有している可能性が指摘されている。アメリカのIT企業のサービスや製品は世界中で利用されており、脆弱性を利用すれば国家機密や企業機密の窃取、ランサムウェアなどでの金儲け、重要インフラの攻撃に使用できる。アメリカ以外の国の個人や団体が正直に全てを公表して悪用していないと考えるのは非現実的だろう。

ichida20230613a.jpg

2012年以降、中国は世界でもっとも多くの脆弱性を悪用した攻撃を行っていると言われている。たとえば2021年3月上旬、米国マイクロソフト社のExchangeサーバーの未知の脆弱性を悪用した攻撃で全世界で最大25万人が被害を受けた。2020年には台湾の国営エネルギー企業CPC Corporationと重要インフラ関連の10の組織がサイバー攻撃によって被害を受けた。

なお、中国ではサイバー攻撃と偽情報やナラティブ戦などのデジタル影響工作を区別しておらず、サイバー攻撃と言った場合両方の攻撃を指す。組織上もひとつのサイバー攻撃部隊が両方を行うことになる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story