コラム

ネット経由で世論を操作する「デジタル影響工作」の世界でも「ナノインフルエンサー」は活用されていた

2023年02月17日(金)19時50分

ニュースサイトらしい体裁を備えているため、初見では肯定的な印象を持つ利用者が多いという調査結果が出ている。ただし、繰り返し使ううちに徐々に不信感が募ってくる。それでも最後の段階で中立的といった肯定的評価の利用者も一定数いた。地域において一定の影響力を持っている可能性がある。運営資金は保守系の団体から得ており、党派性のある記事は保守を支持するものが多い。

この他にもAmerican Catholic Tribune Media Network、Star News Digital Media networkなどのネットワークが存在しており、保守系の支援を受けているところが多い。Star News Digital Media networkは「ベイビー・ブライバート」(ブライバートはアメリカの大手右派サイト)と呼ばれているくらいだ。

アメリカでは地域に特化したメディア空間の変容や政治的暴力の増加など危険な状況が広がっている。ジオ・プロパガンダは選挙や政治的暴力に直接つながるため要注意だ。

ナノインフルエンサーとジオ・プロパガンダの脅威

ナノインフルエンサーとジオ・プロパガンダは党派性の高い組織から資金を得てデジタル影響工作を行っている。いまのところ、2つを統合した作戦があるようには見えないが、そうなるのも時間の問題だろう。今でも分断されている保守とリベラルの関係がさらに悪化する事態を招く危険がある。

国内向けのデジタル影響工作は、政権が安定している限りは大事にはいたらないが(それがよいことかどうかわからない)、ひとたび政権への批判が激しくなったり、社会の分断が広がったりして社会が不安定になるとその脅威は増大する。日本から見ているとアメリカは不安定には見えないかもしれないが、以前の記事に書いたように、アメリカ人の半数以上が数年以内に内戦が起きると考えている調査結果があるほど危険な状態なのだ。
●参考記事
アメリカが直面する内戦の危機と中絶問題──武装化したQAnonやプラウドボーイズ

日本にとってもこうしたアメリカの問題は対岸の火事ではない。アメリカ国内が不安定になれば国外に向けられる力が削がれる。アジアにおけるアメリカの存在感が薄まれば、日本の安全保障への影響は大きい。

また、日本でも同種の問題が起こる可能性も充分ある。すでに日本国内で多数のナノインフルエンサーが活動しているのだ。前回の記事で紹介したAIによる記事自動生成ツールの本格利用が始まればさらにサイトやメディアは増加するだろう。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

来年のIPO拡大へ、10億ドル以上の案件が堅調=米

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story