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ネット経由で世論を操作する「デジタル影響工作」の世界でも「ナノインフルエンサー」は活用されていた
余談だが、SNSではネガティブな情報の方が拡散しやすいことはもしかすると、SNSプラットフォーム開発者や経営者の思想や偏見がエンコードされていたからかもしれない。前掲書でサミュエル・ウーリーは多数のエンジニアに取材し、彼らが個人的な思想や意見がコードやアルゴリズムに反映されていることを当たり前のように認めていたことを報告している。
ビッグデータを解析した研究者がネガティブな情報の方が拡散しやすい結果を得たのは、ネガティブ情報が拡散しやすいようにシステムができていたからとも言えるのだ。SNSから得られたデータは常にSNSのアルゴリズムや運用によるバイアスがかかっていることを忘れてはならない。その結果はSNS利用者の傾向ではなく、SNS開発運用者の傾向なのかもしれない。
政治的影響力とジオ・プロパガンダ
もうひとつ、近年利用が進んでいるのがジオ・プロパガンダ(geo-propaganda)と呼ばれる手法。ジオ・プロパガンダとは、デジタルで収集した位置情報を政治的操作に利用することである。
選挙やデモ、暴動などでは利用者がどこにいるかが重要な意味を持つ。前回のアメリカ大統領選で配布されたアプリにもこの機能があった。投票や選挙演説の会場、デモや暴動の場所に近ければ参加を呼びかけて参加させられる。
●参考記事
アメリカ大統領選に投入されていた秘密兵器 有権者監視アプリ、SMS大量送信、ワレット
また、地域のつながりはより強い結びつきとなる。2021年1月6日に起きたアメリカ連邦議事堂襲撃事件では、参加者のメンバーが特定地域に偏っていたこともわかっている。また、政治的暴力が起こりやすい地域やBLMが長く続いている地域での政治的暴力が発生するリスクがわかっている。選挙と政治的暴力という政治的活動において、ジオ・プロパガンダは効果を発揮すると考えられている。
さらに最近は、アメリカでは新しいローカル紙が増加していることで地域の情報空間が変化している。アメリカではローカル紙が急速に減少しており、それを埋めるように多数の新しいローカルメディアが誕生している。ただし、そのほとんどはなんらかの政治的背景を持つもので内容は偏向している。
特に問題視されているのが「ピンクスライム・ジャーナリズム」の台頭である。ピンクスライムとは、クズ肉を元に作られたきめの細かい加工肉をさす言葉で挽肉の増量などに用いられる。質の悪い記事を量産することからこの呼び名がついた。
アメリカのピンクスライム・ジャーナリズムの大手Metric Mediaは1,200のサイトに記事を配信している。その記事のほとんどは自動生成されたもので、そうでない記事は特に党派性の高いものとなっている。以前の記事で指摘したAI支援デジタル影響工作ツールの脅威はとっくに現実のものとなっていた。
●参考記事
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