コラム

「世界各地で同じことが起こる?」ドイツのクーデター未遂事件が予兆する世界......

2022年12月13日(火)18時00分


QAnonは、2017年11月25日に陰謀論者Oliver Janichが投稿 したYouTube動画で、ドイツ語圏の視聴者の間で広く知られるようになった。パンデミックの前までは活動の中心はフェイスブックやYoutubeだったが、現在はTelegramが中心となっている。この移行はドラスティックで、Qlobal-Changeチャンネルは、2万人の登録者(2020年3月)から10万人以上( 2020年5月)に急拡大した。既存のチャンネルの登録者が増えると同時に新規のチャンネルも増加した。

2020年10月にYoutubeから多くのチャンネルが削除されると、さらにTelegramの利用者は増え、2020年のアメリカ大統領選でトランプが敗北した際に活動は活発となり、その後も高い水準で活動が続いている。

2022年2月4日の段階で、QAnonのチャンネルはTelegram115存在し、グループは84あった。少なくともひとつに所属しているアカウントは123,100で、投稿しているアカウントも含めると346,006となる。

ドイツとオーストラリアの18歳以上を対象に行ったアンケート調査では、全体的にQAnonの主張について否定的もしくは触れたことがないという回答が得られたものの、ドイツでは8人に1人がQAnonの陰謀論に少なくとも部分的に同意しており、オーストリアでは16%以上がQAnonの陰謀論に少なくとも部分的に同意している。また、QAnonそのもの認知度は低いが、QAnonが流布している陰謀論は、よく知られており、社会全体に浸透 していることがわかった。『ウクライナ侵攻と情報戦』より引用

QAnon、ライヒスビュルガー、コロナ陰謀論の支持者の多くは重複していることが前述のCeMASのレポートでわかっている。

ichida20221213b.jpg

日本の報道ではライヒスビュルガー(あるいは"帝国市民"などと表記)が大きく取り上げられているが、Wall Street Journalの「German Police Stop QAnon-Inspired Terrorist Group Plotting Coup」ように「QAnon」に注目している記事もある。

ドイツの情報機関は同国への最大の脅威は国内の極右過激派グループと考えている。情報機関によると、こうしたグループはイデオロギーや政治的なコアを持たず、現在の国家や秩序を拒否する点では一致しているが、その他では極右過激派、カルト、親ロシア派の扇動者、反ユダヤ人など多様である。また、2021年の段階でReichsbürgerには全国で約2万1000人が参加していると推定され、そのうち約10%が暴力的志向を持つ。

国境を越えてオンラインで活動する小グループで構成され、一部の小グループが急速に勢力を拡大していると警告している。

ライヒスビュルガーには評議会があり、そのメンバーが政権奪取後に入閣する予定だった。評議会には軍事部門もあり、クーデターに関与し、武器の調達を担当していたと思われる。この組織は軍や警察のメンバーを対象としてリクルーティングを行っていた。

こうしてみると、今回のクーデターが単発ではなく、一連の脅威のひとつであることがよくわかる。ドイツでは極右過激派が現在の体制を否定する事件が繰り返し起きているのだ。
なお、ドイツ当局および多くのメディアは「極右過激派」と表記しているが、思想的な背景は薄いため個人的には反主流派と表記している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story