コラム

ウクライナ対ロシア 市民も参加するサイバー戦は今後どうなる

2022年07月26日(火)18時32分

ロシアのハクティビストグループの母体はサイバー犯罪関連グループ

ロシアのハクティビストグループには、Killnet、XakNet、RahDit、Kaxnetなどがあることがわかっている。それぞれの来歴は必ずしも明らかではない。

代表的なグループであるKillnetは活発にDDoS攻撃を行っている。5月7日、Killnet のTelegramチャンネルは、ドイツがウクライナに武器を提供したことに対する報復として、複数のドイツ政府機関(国防省、連邦議会、連邦警察およびいくつかの州の警察当局)に対する DDoS 攻撃を行ったと発表。5月10日と14日にはロシアの参加を禁止したユーロビジョン・ソングコンテストに対する DDoS 攻撃を実施した。なお、攻撃は開始13分後に中止されている。5月11日と12日、LEGIONを名乗りDDoS攻撃で、イタリアの上院、軍、国立衛生研究所、イタリア自動車クラブの Web サイトをオフラインにした。5月17日、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、ポーランド、ルーマニア、ラトビア、エストニア、リトアニア、ウクライナの10カ国を標的にしていることを公表。DDoS攻撃以外の攻撃も実施していると語っている。

イタリアへの攻撃には、陰謀論、反ワクチンなどを信じるさまざまな親ロシアの人々が参加しているとも言われている。イタリアのアノニマスと敵対したことから、世界のアノニマスを敵に回すことになった。

KillnetのTelegramチャンネルは2022年1月23日に開設され、すぐに8万6千人となったが、3月と4月に6万人台まで減少、その後増加に転じて8万人を超えている。一部の報道では10万人以上とされているが、おそらくメインのアカウント以外を含んだ総数のことであろう。

もともとKillnetはDDoS攻撃ツールの名称で、サブスクリプションベースにした際、Telegramのチャンネルを作り、それがサイバー義勇兵となってからも引き続き使われている。3月20日にツールのバージョン2.0を公開した後、ウクライナ侵攻の影響でドメインが使用できなくなったとしてサービスを停止、その後、ハクティビストとしてロシア支援を表明し、ウクライナおよびウクライナを支援する国々に対して3月20日にDDoS攻撃を開始した。

ロシアのユーザを中心に支援の声が集まり、Killnetは参加者の募集を開始した。チャンネルの参加者はサブスクリプション開始後すぐにピークに達し、そこからウクライナ侵攻までの間に減少し、その後、じゃっかん増加、減少し、5月下旬以降急増した。

急増する少し前、グループはDDoS攻撃を行うボランティアで構成されるCyber Special Forces RF(ロシア連邦)というLEGIONを作った。LEGIONはさらにJacky、Mirai、Impulse、DDOSGUNG、Sakurajima、Kratos、Raid、Zarya、Vera、Phoenixなどのグループに細分化され、攻撃を実施している。

過去にも親ロシアのハッカーグループがウクライナとNATO、世界アンチドーピング機構にDDoS攻撃を行ったことがあったが、のちにロシア連邦軍参謀本部(GRU)のものと特定されたことがある。以前からある手法でロシアは多用している。

また、今回のウクライナ侵攻に当たって複数のロシアのサイバー犯罪グループがロシア政府機関に協力していることから、Killnetを始めとするハクティビストグループもロシア政府の関与が疑われている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story