コラム

ウクライナ対ロシア 市民も参加するサイバー戦は今後どうなる

2022年07月26日(火)18時32分

ウクライナIT軍にもロシアのハクティビストグループにも世界各国から一般人が参加している...... REUTERS/Luis Cortes

<ウクライナIT軍にもロシアのハクティビストグループにも世界各国から一般人が参加している。意図的に法を破って、第三者に危害を与えることは犯罪行為あるいはテロ行為とみなされるが......>

長引くウクライナ侵攻では、ウクライナは国際世論を背景にグローバルノース各国(欧米プラス日本、韓国)からの支援を得ているが、その活動のひとつにボランティアのサイバー部隊がある。ウクライナのデジタル変革大臣Mykhailo Fedorovが2月26日に発表したボランティアによるIT軍(IT Army)である。この軍にはわかっている範囲で最大時で約約30万人以上が世界各国から参加している。

一方、ロシア側にもボランティアによるハクティビスト(アクティビズムとハックを組み合わせた造語)グループがある。こちらはロシア政府が呼びかけてできたものではなく、自発的に発生したことになっている。Killnet、XakNetなどがそうである。

ウクライナIT軍とロシアのハクティビストグループにはいくつか共通点がある。ひとつは主にTelegramを利用していること、もうひとつは、それぞれの政府が関与していることである。簡単にまとめたものが下表である。より詳細な表については拙noteをご参照いただきたい。

ichida20220726aa.jpg


ウクライナIT軍にはふたつのグループがある

ウクライナIT軍はDDoS攻撃などについては、Telegramで情報を共有している。メインのチャンネルは、@itarmyofukraine2022でウクライナIT軍の人数の根拠はここの参加者の数である。最大時には307,165だったが、先週確認したところ244,638まで減少していた。開設後、一気に30万人を突破し、その後、じわじわと減り続けている。このチャンネル以外に関係しているチャンネルが多数あり、次の攻撃ターゲットの指示が公開されると拡散を行っている。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校のStefan SoesantoがウクライナIT軍の詳細を整理、分析している。攻撃に関する情報はGoogle Docs上の「IT Army Coordination Document」で共有されており、攻撃の優先度やサイトのダウン状況、ロシア官公庁のURLとIPアドレスなどが掲載されている。この文書は主として新規参加者のガイドになっており、攻撃レベルが低いものから高いものまで分かれている。

攻撃レベルの低いものではplayforukraine.orgなど4つのDDoS攻撃を行えるサイトが紹介されており、攻撃レベルが高いものにはAWS、Google、Microsoftが提供するクラウド 上の仮想サーバーの無料トライアル期間を利用して攻撃ツールをインストールする方法などが紹介されていた。

エストニアに本社をおくHacken.ioはLiberatorと呼ばれるDDoS攻撃ツールを3月4日に公開した。この仕組みはLiberatorをインストールし、トークンを購入することで非中央集権型DDoS保護ネットワーク(de-centralized DDoS protection network )に参加することで正体を隠して安全にDDoS攻撃の手助けをすることができるものだ。この呼びかけに反応したアメリカのYouTubeインフルエンサーBoxminingがロシアにDDoS攻撃を行うためにLiberatorのインストールを勧める動画を公開した。

だが、ウクライナIT軍のTelegramでは共有されない活動がある。3月初旬のロシアのISP、miranda-media.ruの改竄、ロシア版インスタグラムRossgramやロシア版YouTubeのRuTube、アメリカのClearviewの顔認識システムを使用してロシア兵の遺体の身元を確認した数の公開などだ。

こうしたいくつかの事実から、ウクライナIT軍には政府機関の部隊と、一般参加者の部隊の2つのグループがあると考えられている。該当する政府機関としてキーフにある72nd Center for Informational and Psychological Operationsの関与が疑われている。

また、ウクライナIT軍のサイバー攻撃の成果については疑問を呈する声も多く、外部へのアピールと、政府部隊の活動を隠すために活用されているようだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏独英、中国の台湾周辺軍事演習に懸念表明 一方的な

ワールド

サウジ、イエメン南部の港を空爆 UAE部隊撤収を表

ワールド

ロ、ベラルーシに核搭載可能ミサイル配備 欧州全域へ

ワールド

ウクライナ、米軍駐留の可能性協議 ゼレンスキー氏「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story