コラム

産業化し国家と結びつくサイバー犯罪者たち 2022年サイバー空間の脅威予測

2021年12月01日(水)18時01分

注意が必要な国家としては、ロシア、イラン、中国、北朝鮮があげられている monstArrr_ iStock

<サイバー犯罪、攻撃はすでに産業化しており、サイバー犯罪組織はその規模と影響力を増大している。サイバーセキュリティベンダ6社の2022年予測を整理する>

サイバーセキュリティベンダの多くは毎年翌年の予測を出している。例年のことだが、これから数年はサイバー空間の意味が大きく変化するので注意が必要だ。より産業化し、より国家との結びつきが強まり、その結果として社会は永続的に規模の大きな脅威にさらされることになる。

来年予想される変化をサイバーセキュリティ業界6社=ソフォスチェックポイントソフトウェアテクノロジーズマンディアントマカフィー&ファイアアイカスペルスキーガートナーのレポートからまとめてみた。個々の詳細については拙ブログをご参照いただきたい。

ichida20211201aa.jpg

全社に共通していたのはランサムウェアの脅威の拡大と産業構造の変化。それ以外では、クラウド、AI、民間企業だった。OT(産業制御分野)やサプライチェーンも注目すべきだろう。OTとはオペレーショナル・テクノロジーで、産業制御などのシステムへの攻撃を指す。説明すると長くなるが、オフィスなどのITと生産設備や発電所あるいは交通管制で用いられるOTは異なっている面が多く、脆弱である。

また、忘れがちだが、OTのひとつである宇宙の施設へのサイバー攻撃も深刻な脅威となっている。すでに宇宙は地球上の活動にとってなくてはならないインフラとなっている。よく知られているのはGPSだが、それ以外に気象情報、環境モニタリング、あるいは通信インフラなどさまざまな役割を担っている。安全保障でも重要な役割を果たしている。宇宙への依存度は年々高まっているが、その一方でサイバー攻撃のターゲットにもなってきているのだ。

民間企業というのは民間企業へのアウトソーシングだ。国家やテロリストあるいは他の犯罪者が民間企業にサイバー攻撃あるいはその一部を委託する。商用ツールがサイバー攻撃に悪用される事態も起こっている。

イスラエルの民間企業NSOグループは権威主義国家などにスパイウェアを提供していたが、ワシントンポストなどの調査報道でその実態が暴露され、大スキャンダルとなった。

マルウェア以外のネット世論操作でも同様に民間企業の活動が進んでいる。イスラエルのアルキメデスグループなどが有名だ。こうした変化によって国家と民間企業あるいは、テロと作戦の機能と境界があいまいになってきている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story