コラム

ファクトチェックの老舗Snopesの剽窃事件の裏にある問題

2021年09月02日(木)17時20分

ファクトチェックサイトに陰謀論サイトへ誘導する広告を配信

ファクトチェックサイトSnopesが広告配信サービスを利用して収入を得ていたことは前段で紹介した。そこに配信される広告がデマや陰謀論サイトへ誘導する広告だったらどうなるだろう?

The New York Timesによると、グーグルはPolitifactやSnopesといったファクトチェックのサイトに、デマや陰謀論サイトへ誘導する広告を配信していた。中には以前Snopesがファクトチェックで否定した説を掲載していたサイトの広告もあった。

アクセスを稼ぐという意味ではグーグルの広告配信は間違っていないのかもしれない。大手ファクトチェックだからといって信用せず、複数のサイトで事実確認し、クリティカルシンキングを行う人、つまりファクトチェックサイトをよく利用するような人には、「この広告の話はSnopesでは否定されていたけど、他のサイトも見ておくべきか」と思ってくれる可能性があるので引きが強い広告になりうる。誘導された先のサイトを信じてしまう人も一定の割合でいるだろう。リテラシーのバックファイア(「フェイクニュース対策としてのメディア・リテラシーの危険性 データ&ソサイエティ研究所創始者&代表のdanah boyd氏のスピーチ「You Think You Want Media Literacy... Do You?」の紹介」という現象だ。

デマと陰謀論がもたらす利益はファクトチェックより優先される

以前の記事、「コロナ禍によって拡大した、デマ・陰謀論コンテンツ市場」に書いたように、コロナ禍でデマや陰謀論の市場は拡大した。そのための広告やシステムを提供してきたのはグーグルを始めとするSNS企業などなのだ。特にデジタル広告の巨人であるフェイスブックとグーグルの責任は重い。2020年の段階で2社を合わせるとアメリカの広告市場の半分以上を占めている。

ファクトチェックと広告ビジネスの優先度を考えれば後者の方が高いのは当然だろう。むしろ後者の妨げにならないように、ファクトチェックを利用している可能性がある。実際、すでに紹介したようにフェイスブックは顧客との関係を維持するために保守派の投稿がファクトチェックでラベルを貼られたり、ペナルティを受けないようにしていた。それはつまり、デマや陰謀論がもたらす利益はファクトチェックより優先するということだ。

ファクトチェック機関の収入源は限られており、Snopesのように資金難に苦しんでいる団体もある。フェイスブックやグーグルはそこに甘い餌を撒いている。リテラシー教育まで手を伸ばすグーグルを見ていると、自社に都合のよいリテラシーやファクトチェックのあり方を醸成している心配すらわいてくる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

サプライチェーン圧力上昇、3月は23年序盤以来の高

ワールド

イラン、米停戦提案を拒否 パキスタン経由で回答=I

ワールド

韓国大統領、ドローン侵入で北朝鮮に遺憾表明 金与正

ワールド

米・イスラエル、イランの石油化学施設攻撃 過去24
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 5
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 6
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 9
    イラン戦争は「ハルマゲドンの前兆」か? トランプ…
  • 10
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story