コラム

世界49カ国が民間企業にネット世論操作を委託、その実態がレポートされた

2021年01月28日(木)19時00分

国家目標の達成と世界的影響力の拡大にはネット世論操作は不可欠?

こうしたネット世論操作は民主主義的価値観と相容れないもののように見える。ネット世論操作上位国のThe Economist Intelligence Unitの民主主義指数と同じく民主主義指数であるV-Demの結果をさきほどの表に記入して確認してみた。やはりネット世論操作上位国のほとんどは自由な民主主義体制ではなかった(民主主義指数およびV-Demのどちらも赤色とオレンジ色が非民主主義を示している)。ただ、イギリス、アメリカ、イスラエルはネット世論操作上位国でも民主主義体制を維持している。両立している国もあるのだ。

昨年発表された国家サイバーパワー指数2020(2020年9月)は従来のサイバー関係の指標と異なり、国家目標を達成するためのサイバーパワーを指数化している。この中には商業あるいは産業発展のために違法なサイバー活動を行うことや、国内外で情報操作を行うことも含まれている。国家目標を達成するための重要な活動と考えられていることを端的に示している。その意味で両立は避けて通れない課題なのかもしれない。ネット世論操作上位国のNCPIの順位を見ると、体制に関係なく世界に影響力を持つ国はネット世論操作能力を保持していなければならないようにも見える。

新しい時代の新しい産業

ネットとSNSの普及は社会のあり方を大きく変えつつある。グーグルやフェイスブックなどのネット産業が誕生したように、ネット世論操作産業などの新しい産業が生まれつつある。ネット世論操作産業は一般の認知度は低いが、ネット世論操作が本格的に選挙でも知られるようになった2014年頃には産業として成長を始め、ケンブリッジ・アナリティカなどの企業が生まれた。

だが、その実態は必ずしも明らかではない。今回ご紹介した数少ないネット世論操作の資料『Industrialized Disinformation 2020 Global Inventory of Organized Social Media Manipulation』のケーススタディ編では各国の詳細な実態がレポートされる予定で、この記事が掲載されるころには公開される予定だという。新しい発見があれば、またご紹介したい。
 
なお、今回取り上げたレポートに日本は取り上げられていない。これは日本でネット世論操作が行われていないというよりは、ネット世論操作に関する調査がほとんど行われていない(より正確には英語で公開されていない)ためと理解した方がよいだろう。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏「時には薬飲む必要」、市場急落巡り 意図

ビジネス

第一生命、豪チャレンジャーに800億円出資 MS&

ワールド

原油先物は3%超続落、貿易戦争激化による景気懸念で

ビジネス

台湾鴻海、第1四半期売上高は過去最高、国際政治の動
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 8
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 9
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story