コラム

世界49カ国が民間企業にネット世論操作を委託、その実態がレポートされた

2021年01月28日(木)19時00分

フェイスブックは「December 2020 Coordinated Inauthentic Behavior Report」で同社に関連するアカウントなどに停止などの措置を行ったと発表した。余談であるが、このフェイスブックのレポートにはネット世論操作活動で停止にいたった他のアカウントも記載されており、ネット世論操作上位国の名前が並んでいる。

これらは氷山の一角にすぎない。世界にはたくさんのネット世論操作企業があり、その産業規模は拡大していると考えられる。また既存の広告代理店がこの分野に進出してきている例もある。たとえばインド首相ナレンドラ・モディは選挙キャンペーンの一部をアメリカの広告代理店に外注した(ADRN、2020年10月)。

ネット世論操作能力上位17カ国に共通する特徴

ネット世論操作が行われている81カ国の中には高い能力を有する国とそうでない国がある。このレポートで高い能力を持つグループに分類されているのは、次の表の17カ国である。

ichida0128b.jpg


これらの国々はネット世論操作を行うための充分な人員と予算を持ち、そのための組織が恒常的に存在している。その特徴は下記である。ただし、多くは他の国でもある程度は見られるもので、上位国が上位国たりえているのはこれらのほとんどを恒常的に実施しているからである。下位の国では一部しか実行できないか、実行していても充分な規模ではなく、継続的でもない。

・上位国の全てが政府を支持し、対立政党や市民団体、人権団体、ジャーナリストを攻撃するネット世論操作を実施
表中薄い青で塗られた部分である。これは上位国に限らずネット世論操作実施国の多くで観測されている。ネット世論操作の基本は自国内を掌握することである。調査対象の国の90%が政府支持のフェイクニュースやプロパガンダを行っていた。また、94%が対立政党や市民団体、人権団体、ジャーナリストを攻撃するネット世論操作を実施していた。

・ウクライナを除く上位国全ての政府機関がネット世論操作を実行
表中薄い緑で塗られた部分である。今回のレポートでは62カ国の政府機関がネット世論操作を行っていた。上位国以外でも政府機関がネット世論操作を行うのは当たり前になりつつある。

・市民団体やインフルエンサーを活用
全体では23カ国が市民団体をネット世論操作に活用し、51カ国がインフルエンサーを利用していた。

・民間企業の利用も進んでいる
表中薄い赤で塗られた部分である。ミャンマーとパキスタン以外は民間企業へのネット世論操作を委託したことがある。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国自動車ショー、開催権巡り政府スポンサー対立 出

ビジネス

午後3時のドルは149円後半へ小幅高、米相互関税警

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story