コラム

新疆ウイグル問題が暗示する民主主義体制の崩壊......自壊する民主主義国家

2020年11月13日(金)14時30分

新疆ウイグル問題は国連でも何度か取り上げられているが、中国支持を表明している国の方が多い......REUTERS/Jason Lee

<香港や新疆ウイグルの問題で中国が国連で多数派を握れるのはひとつには一帯一路を中心とした影響力の拡大があるが、それよりも重要なのは世界各地で民主主義そのものが衰退してきていることだ......>

世界の多数を占める中国支持派

中国における新疆ウイグル問題に長らく注目が集まっている。弾圧や人権蹂躙は許されるべきことではないのは確かだが、この問題にはさまざまな側面がある。筆者はこの問題の全体像について語れるほど知識も情報もないので、あるひとつの側面にだけ注目して考えてみたい。民主主義体制の崩壊である。

新疆ウイグル問題は国連でも何度か取り上げられており、最近では10月6日の人権会議でドイツが39カ国(含む日本)を代表して声明を読み上げ、重大な懸念を表明した。ただし新疆ウイグル問題について懸念を表明(中国を非難)している国よりも、中国支持を表明している国の方が多いのが現実である

なお、昨年は中国を非難する書簡に署名したのは22カ国、これに対して支持する書簡に署名したのは50カ国と倍以上の開きがあった。当初は37カ国であったが、その後遅れて参加した国を加えると50カ国になる(ジェイムズタウン財団、2019年12月31日)。

中国を支持している国のほとんどは経済的便益を守りつつ、自国内の人権問題に波及しないようにしているのだ、という指摘もある。実際、これらの国の多くは中国と一帯一路に参加しており、経済的な関係を持っている。昨年の段階ではイスラム教徒が主流を占める23の国も中国を支持していた。ちなみに一帯一路加盟国の人口の合計は、すでに世界の過半数を超えている

一方、中国を非難している国々のほとんどはヨーロッパと英語圏の国である。日本は例外だ。そして多くの国がNATOあるいはアメリカと安全保障面で結びついている。昔の言葉で言うなら西側あるいは先進国と呼ばれる国々だ。なお、日本政府はロヒンギャ、カンボジアなどの問題では人権への配慮を欠く対応を批判されることも多い(ヒューマン・ライツ・ウォッチ、2019年4月7日)。

人権問題を巡って、先進国の連合が中国を非難する構図は香港における抗議活動の弾圧でも見られた。第44回国際連合人権理事会では中国支持派が多数(53カ国)となり、およそ半分の27カ国が中国を批判した。この時、日本の多くのメディアは中国支持が多数を占めた事実にはほとんど触れず、27カ国が批判したことに注目していた。

新疆ウイグル問題についての報道は前回の香港ほど偏っていないが、それでも国連で多数の国が中国を支持しているという事実はあまり重要視されていない。香港の問題に関して多数が中国を支持していることを指摘した以前の記事にも書いたが、日本にいる我々には世界の多数派が見えにくくなっている懸念がある。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏やエジプトなどの仲介国、ガザ停戦に関する

ビジネス

米労働市場にリスク、一段の利下げ正当化=フィラデル

ワールド

トランプ氏、ゼレンスキー氏と17日会談 トマホーク

ワールド

トランプ氏、ガザ停戦でエジプトの役割を称賛 和平実
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story