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コロナ禍でも威力を発揮したロシアのデジタル監視システム 輸出で影響力増大
ただ、SORMの運用については問題も多い。キルギスタンでは導入したシステムにバックドアがあり、情報がロシアに流れていたという騒動があった(wired、2012年11月12日)。2019年にはロシアの通信事業者Mobile TeleSystemsと契約していたノキアからSORMに関する文書を含む大量の情報が流出する事件(UpGuard、2019年9月18日)やインターネットプロバイダに設置したSORMの通信傍受装置30台からデータが漏洩する事件が起きている(ZD-Net、2019年8月30日)。
ロシアではSORMに加えて監視カメラを設置した「セーフシティ」を2015年から展開している。2012年から2019年にかけてワールドカップ開催都市を「セーフシティ」にするため推定28億ドル(約2兆8千億円)の予算を投じた。モスクワ市内には17万台の監視カメラが設置され、そのうち少なくとも105,000台はロシア企業NTechLabsのシステムを搭載している。顔認証、物体認識システムを搭載した監視カメラから自動的に情報を収集している。
この顔認証システムはコロナの自主隔離の確認にも使用されており、韓国からロシアに帰国した住人が、14日間の自主隔離期間中に一度外出したところ、顔認証システムですぐにばれて警察の訪問を受けたエピソードをABCニュースが紹介している(2020年4月30日)。記事によれば10秒以内に顔認証で相手を特定できるという。コロナの濃厚接触者の追跡も行っている。
ロシアは中国に大きく遅れを取っているAIの分野への投資もさかんに行っており、AIを用いて犯罪を予知し、体制に対して潜在的な危険人物を裁くことも視野に入れている。
余談であるが、前掲の『The Worldwide Web of Chinese and Russian Information Controls』の巻末には世界各国にデジタル権威主義のためのツールを販売している中国およびロシア企業のリストや輸出先の国の一覧などがついている。関心のある方には参考になると思う。
ロシアの国民管理システム
中国の国民管理システム=社会信用システムが広く普及し、統合化されつつあるのに対して、ロシアは遅れている。
2002年のメドベージェフの時代に、政府のデジタル化(eGovernment policy)に着手したもののあまり成果はあがらなかった。その後、2009年に政府のポータルが構築され、2013年までに認証システム(Single System of Identification and Authentication=ESIA)が整備され、地方を含めたシステム(Single Portal of State and Municipal Services=EPGU)となった。2017年までに7千万人を超える人々がESIAにしたという(National Defence University 2020年5月27日)。
その後、ロシア連邦警護庁のRSNetやUnified Data Network (ESPD)、Upravlenie などを経て、2019年にNational System of Information Management (NSUD)に統合化されることが発表された。
NSUDはロシア政府の各組織が保有する情報を統合化したシステムであり、そこには政府や自治体のみならず、企業および個人の資産などの情報も含まれる。800以上の国家システム、登録簿、データベースを体系化するプラットフォームとなる(ジェトロ、2019年8月20日)。
NSUDの詳細ならびに監視システムなどとどのように連携するかはまだ明らかではないが、その向かう先が以前紹介した中国の社会信用システム(「中国が一帯一路で進める軍事、経済、文化、すべてを統合的に利用する戦い」、2020年7月14日)であり、それもまたCIS諸国を中心に輸出され、情報インフラとなる可能性が高い。
今回はロシアの監視システムおよび国民管理システムをご紹介した。次回は世界トップレベルのロシアのネット世論操作を中心にご紹介する。日本政府や大手メディアがロシアを強く批判しない理由についても触れてみたい。
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