コラム

コロナ禍でも威力を発揮したロシアのデジタル監視システム 輸出で影響力増大

2020年08月14日(金)17時00分

ただ、SORMの運用については問題も多い。キルギスタンでは導入したシステムにバックドアがあり、情報がロシアに流れていたという騒動があった(wired、2012年11月12日)。2019年にはロシアの通信事業者Mobile TeleSystemsと契約していたノキアからSORMに関する文書を含む大量の情報が流出する事件(UpGuard、2019年9月18日)やインターネットプロバイダに設置したSORMの通信傍受装置30台からデータが漏洩する事件が起きている(ZD-Net、2019年8月30日)。

ロシアではSORMに加えて監視カメラを設置した「セーフシティ」を2015年から展開している。2012年から2019年にかけてワールドカップ開催都市を「セーフシティ」にするため推定28億ドル(約2兆8千億円)の予算を投じた。モスクワ市内には17万台の監視カメラが設置され、そのうち少なくとも105,000台はロシア企業NTechLabsのシステムを搭載している。顔認証、物体認識システムを搭載した監視カメラから自動的に情報を収集している。

この顔認証システムはコロナの自主隔離の確認にも使用されており、韓国からロシアに帰国した住人が、14日間の自主隔離期間中に一度外出したところ、顔認証システムですぐにばれて警察の訪問を受けたエピソードをABCニュースが紹介している(2020年4月30日)。記事によれば10秒以内に顔認証で相手を特定できるという。コロナの濃厚接触者の追跡も行っている。

ロシアは中国に大きく遅れを取っているAIの分野への投資もさかんに行っており、AIを用いて犯罪を予知し、体制に対して潜在的な危険人物を裁くことも視野に入れている。

余談であるが、前掲の『The Worldwide Web of Chinese and Russian Information Controls』の巻末には世界各国にデジタル権威主義のためのツールを販売している中国およびロシア企業のリストや輸出先の国の一覧などがついている。関心のある方には参考になると思う。

ロシアの国民管理システム

中国の国民管理システム=社会信用システムが広く普及し、統合化されつつあるのに対して、ロシアは遅れている。

2002年のメドベージェフの時代に、政府のデジタル化(eGovernment policy)に着手したもののあまり成果はあがらなかった。その後、2009年に政府のポータルが構築され、2013年までに認証システム(Single System of Identification and Authentication=ESIA)が整備され、地方を含めたシステム(Single Portal of State and Municipal Services=EPGU)となった。2017年までに7千万人を超える人々がESIAにしたという(National Defence University 2020年5月27日)。

その後、ロシア連邦警護庁のRSNetやUnified Data Network (ESPD)、Upravlenie などを経て、2019年にNational System of Information Management (NSUD)に統合化されることが発表された。

NSUDはロシア政府の各組織が保有する情報を統合化したシステムであり、そこには政府や自治体のみならず、企業および個人の資産などの情報も含まれる。800以上の国家システム、登録簿、データベースを体系化するプラットフォームとなる(ジェトロ、2019年8月20日)。

NSUDの詳細ならびに監視システムなどとどのように連携するかはまだ明らかではないが、その向かう先が以前紹介した中国の社会信用システム(「中国が一帯一路で進める軍事、経済、文化、すべてを統合的に利用する戦い」、2020年7月14日)であり、それもまたCIS諸国を中心に輸出され、情報インフラとなる可能性が高い。

今回はロシアの監視システムおよび国民管理システムをご紹介した。次回は世界トップレベルのロシアのネット世論操作を中心にご紹介する。日本政府や大手メディアがロシアを強く批判しない理由についても触れてみたい。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続

ワールド

トランプ氏、有権者ID提示義務化へ 議会の承認なく
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医
  • 4
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    「賢明な権威主義」は自由主義に勝る? 自由がない…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story