コラム

トルコ宗務庁がトルコの有名なお土産「ナザール・ボンジュウ」を許されないとした理由

2021年02月25日(木)17時35分

トルコのお土産品と言えば、邪視除けのお守り「ナザル・ボンジュウ(ナザール・ボンジュウ)」 lionvision-iStock.

<トルコに旅行した人なら必ずと言っていいほど買う、邪視除けのお守り。絵文字にもなるほどトルコ文化を代表するものなのに......。邪視は中東では広く信じられている迷信で、クルアーン(コーラン)に邪視を指す記述もあるのだが>

少しまえのことだが、カタル(カタール)のジャジーラ放送(アルジャジーラ)英語オンライン版の報道を見て、びっくりした。トルコの宗務庁が、邪視除けのお守りである「ナザル・ボンジュウ(nazar boncuğu、ナザール・ボンジュウとも)」を禁止したというのである。

ナザル・ボンジュウとは、トルコに旅行したことのあるかたであれば、かならずといっていいぐらいお土産に買うほど有名なものだ。通常、円形のガラス製で、目玉のように青と白と水色の丸が描かれている。

前半部分の「ナザル」はもともとアラビア語で、「見ること」を意味する。また後半の「ボンジュウ」は単独で使われるときは「ボンジュク」となり、数珠の玉やビーズのようなものを指す。

一方、「邪視」とは日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、英語では「イーブル・アイ evil eye」といい、ヨーロッパでは一般的な迷信であり、中東でももっとも広く信じられている迷信の一つとされている。

トルコ語では単に「ナザル」といったり、説明的に「邪な目」を表す「ケム・ギョズ」と呼ばれたりする。また、アラビア語では「ナザル」の語も用いられるが、一般的には「目」を意味する名詞「アイン」が使われる。あるいは嫉妬を意味する「ハサド」をつけて「アイン・ハサド」ともいうが、地域によっていろいろな呼びかたがある。ペルシア語でも「チャシュメ・バド」とか「チャシュメ・ハサド」といった言い回しがある。

クルアーン(コーラン)には邪視への直接的な言及はないが、第68章51節には「(もの凄い)目つきで睨みつけること」、第113章5節には「妬み男の妬み心の悪を逃れて」(訳は岩波文庫版より)とあり、これが一般に邪視のことを指していると考えられている。

また預言者ムハンマドの言行録(ハディース)にも邪視に対する言及がある。そのなかで預言者は「邪視は真実である」と明確に述べており、中東だけでなくイスラーム世界では邪視はごくふつうに信じられているといっていい。

嫉妬は恐ろしい、死因の半分は邪視だといったハディースもある

中東では古代エジプトにおいて「ホルスの目」や「ラーの目」がお守りとして用いられていたことからもわかるとおり、「目」や「視」には、霊的な力があると信じられている。そのほか、中東では「ハムサ」と呼ばれる邪視除けの護符がある。

ハムサは数字の「5」であり、それはすなわち指の数、さらには手を表す。邪視ににらまれた場合、そのにらんだ相手に向け右手を伸ばし、5本の指を開く。すると、邪視を払うことができるというのだ。それでも効果がないときは、数字の「5」を含む呪文を唱えると利く。

※記事タイトルを修正しました。(2月25日19:35)

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利0.75%で維持 原油高の基調物価へ

ビジネス

焦点:日銀正常化にハードル、高市政権内に慎重論 今

ワールド

バチカン枢機卿、米・イスラエルに停戦求める 異例の

ワールド

イランガス田はイスラエルが攻撃、米・カタール関与せ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 10
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story