コラム

トルコ宗務庁がトルコの有名なお土産「ナザール・ボンジュウ」を許されないとした理由

2021年02月25日(木)17時35分

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同じく邪視除けの護符である「ファーティマの手」(ハムサとも呼ばれる) Antonio Lopez Rico-iStock.

こうした行為を物質化したのがイスラーム世界では「ファーティマの手」と呼ばれる護符である。一般的には金属製で手のひらを広げたかたちをしており、その掌にはしばしば目の意匠がついている。手だけでなく、目もついていることで、手と目の呪術的力を合わせもち、強力な邪視除けの護符となる。

ちなみに、このファーティマの手はハムサとも呼ばれ、しばしば同じものを指す。また、ファーティマの手の目の部分にナザル・ボンジュウがつけられる場合もある。

あまり知られていないが、日本でも一切の衆生を救う千手観音は「千手千眼観音」とも呼ばれ、その手のひら一つ一つに「目」がついている。これなど、ファーティマの手を想起させて、興味深い。

さて、邪視に襲われると、襲われたものにはさまざまな厄災が降りかかる。頭痛がしたり、不安感に苛まれたりといった、邪視のせいかどうか判別しづらいものから、究極の呪いともいうべき死に至るまで、邪視のもたらす悪影響は幅広い。

人類の死因の半分は邪視だといったハディースもあるで、それほど嫉妬は恐ろしいということであろう。最近では、邪視の被害を受けるのは人間だけではないらしい。エアコンやテレビ、パソコンの故障も邪視のせいだとされるという。

青い目の持ち主に邪視の力がある一方、青には魔を払う力もある

中東では、どんな人間でも邪視の力を有すると考えられているが、とりわけ目の色が青や緑だったり、目が落ちくぼんだりした人は邪視の力が強いとされている。また、男性と比較して、女性、とくに未婚の老女はその傾向が強いといわれる。

他方、ナザル・ボンジュウの色でもある青には魔を払う力があるとされ、これは、青い目の持ち主に邪視の力があるとされるのと対をなす。

上で嫉妬が邪視の要因だと考えられていると紹介したが、こうした考えかたは、邪視にかからないためには、嫉妬の対象にならないようにしたほうがいいという発想を生む。つまり、人から羨ましがられたり、妬まれたりするのを避けようとするわけだ。

そのため、赤ん坊や幼児、妊婦、さらに美しいもの、よきものなどが邪視の標的になると考えられるようなった。昔のエジプトでは、嫉妬を受けないように、金持ちの家でも子どもにわざと汚い格好をさせるといったことが行われていたようだ。

もちろん、それだけでは不十分で、ふつうは護符を使ってさらに万全を期す。ナザル・ボンジュウやハムサがそれである。

たとえば、トルコでは、成田山の交通安全のお守りよろしく、自動車のルームミラーにナザル・ボンジュウがぶら下げられている車をよく見かけるし、家のなかにも飾られている。また、家族にはじめて子どもが生まれたときにも、ナザル・ボンジュウでその子を邪視から守るのが一般的だ。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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