コラム

スタバも、スバルも、人種差別主義者なのか?

2018年05月28日(月)16時24分

創業者にユダヤ人が含まれる企業は...

かつて米国企業ではフォードやコカ・コーラといった米国を代表する企業がシオニストのレッテルを貼られ、アラブ諸国ではボイコット対象になっていた。これを「イスラエル・ボイコット(あるいはアラブ・ボイコット)」と呼ぶ。

だが、今日では制度的なイスラエル・ボイコットは事実上、消滅しており、フォードもコカ・コーラも今ではアラブ諸国でふつうに購入できる。何より1999年から2001年までフォードのCEOをつとめていたのはレバノン系オーストラリア人だし、コカ・コーラも現在の会長はトルコ人という状況だ。

英国ではデパートのマークス・アンド・スペンサーがシオニスト企業として有名である。もちろん、会社自体はシオニストであることを否定しているが、イスラエル・パレスチナ絡みで事件が起きるたびに、同社店舗の近辺で親パレスチナのデモが行われている。

英国系ではスーパーマーケット大手のセインズベリーもしばしばシオニストとして槍玉にあがる。

個人的な経験だが、わたしがエジプトに住んでいたとき、お気に入りだったスーパーマーケットはこのセインズベリーだった。アパートから近いこともあったが、近所のエジプトの伝統的なバッカール(雑貨屋)と比較すると、品揃えは圧倒的に豊富で、品質もいい。また、何より安いし、ぼられる心配もなかった。ところが、このセインズベリーもシオニストだとモスクの説教などで叩かれ、その結果、暴徒の襲撃を受け、結局エジプトから撤退してしまう(公式の撤退の理由は収益が悪かったからだが)。

セインズベリーの撤退で、質のいい商品を安く買うことができなくなって困るのは一般庶民である。わたしなど当時、セインズベリーに勝てないとみたバッカールのオーナーたちがモスクの説教師を焚きつけて、反セインズベリーの言説を広めたんではないかと邪推したものであった。

ちなみに、スターバックスもマークス・アンド・スペンサーも、セインズベリーも創業者にユダヤ人が含まれているところがミソでもある。ユダヤ人やユダヤ系に何らかの思い入れがあると、ああ、やっぱりね、となりがちなのだ。

日本車スバルがいわれなき批判をされた事情

標的にされるのは欧米企業だけではない。たとえば、7、8年前のことだが、日本の自動車メーカー、スバルのイスラエル現地法人が、スバル製自動車がパレスチナ人の若者を撥ねている写真を広告に使ったとして、パレスチナ側から抗議を受けるという事件があった。

写真をみると、スバル車が覆面をした若者を跳ね飛ばしており、ご丁寧にもスバルのロゴといっしょにヘブル語で「あなたの行く手を阻むものを見よ」とのコピーがつけられている(らしい)。

hosaka180528-2.jpg

結論だけ先にいえば、この「広告」は捏造であり、スバルは無実である。だが、実はこの事件、いろいろな要素が複雑に絡まっていて、単純にはいそうですかというわけにはいかない。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウ大統領、和平案巡り「困難な選択」 トランプ氏27

ワールド

米、エヌビディア半導体「H200」の中国販売認可を

ワールド

プーチン氏、米国のウクライナ和平案を受領 「平和実

ビジネス

ECBは「良好な位置」、物価動向に警戒は必要=理事
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story