焦点:「衝撃と畏怖」で始動したトランプ政権、今が権力の絶頂か
1月25日、トランプ米大統領は就任からわずか5日で情け容赦ないスピードと効率で自らの意志を押し通し、最も過激な選挙公約でさえ「はったり」ではなかったことを見せつけている。写真は同日、ラスベガスで開かれた経済イベントでスピーチするトランプ氏(2025年 ロイター/Leah Millis)
Gram Slattery
[ワシントン 25日 ロイター] - トランプ米大統領は就任からわずか5日で情け容赦ないスピードと効率で自らの意志を押し通し、最も過激な選挙公約でさえ「はったり」ではなかったことを見せつけている。
トランプ氏は第1歩として、第1次政権中に自分に敵対的だったと見なす連邦政府の官僚機構を改革するという公約の実現に動き出した。多数の政府機関の公務員数百人を一斉に配置転換または解雇した。
南部国境には軍を急派し、沿岸警備隊の司令官を解任し、環境規制から米市民権の規則に至るまで、幅広い大統領令(うち26件は就任から数時間以内に発令)によって数十年にわたる憲法解釈に異議を唱えた。
中でも最も恐れ知らずの行動はおそらく、2021年1月6日に米民主主義の象徴である連邦議会議事堂を襲撃した約1500人の支持者らに恩赦を与えたことだろう。
トランプ氏の同盟者らは「衝撃と畏怖」の幕開けを特殊部隊の急襲に例える。トランプ氏が政界 を離れていた間、トランプ氏の周辺は同氏が即座に行動できるよう詳細な政策計画を練るのに多くの時間を費やしてきた。
第1次トランプ政権で大統領首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏はロイターに「これは連邦政府を乗っ取るための先遣隊だ」と語った。
トランプ氏の反対派は、同氏が憲法をゆがめ、本来の限界を超えて大統領権限を行使していると言う。また、トランプ氏の初動から分かるのは、同氏が米国を団結させることよりも根本的に変革すること、そして多くの場合、復讐することに関心があるということだとも指摘する。
トランプ氏は初動の一つとして、バイデン前大統領の息子ハンター氏に関する好ましくないメディア報道はロシアの工作が原因だと指摘した元情報機関当局者数十人のセキュリテイークリアランス(安全保障上の機密取扱資格)を取り消した。
また、イランからの脅威に直面しているにもかかわらず、元国家安全保障担当者3人の警備を解除した。トランプ氏の側近らはわざわざ国防総省の廊下から、最も手厳しいトランプ批判者の一人であるマーク・ミリー元統合参謀本部議長の肖像画を撤去した。
さらにトランプ氏は、自身への忠誠心が不十分とみなされたキャリア官僚をホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)から追放。これにより、100を超える国家安全保障関連ポストに忠誠心の強い人材を登用することが可能となった。
40年以上にわたり政府内外で働いてきたブルッキングス研究所の上級研究員、ウィリアム・ガルストン氏は「彼が簡単に恨みを捨て去るような人物ではないのは明らかだ」と言う。
ホワイトハウスにコメントを求めたが、返答は得られなかった。
<長年の構想>
トランプ氏の敵対者らでさえ、この5日間は1期目とあまりに対照的だと言う。1期目には内紛や準備不足により、同氏の最も野心的な政策構想の多くが頓挫した。
「規模とスピード全般を見る限り、彼のチームは並外れた準備の結果を示した」と、大統領史の専門家であるティモシー・ナフタリ氏は話した。
トランプ氏の政策の多くは、過去2年以上にわたって政策草案を作成してきた保守系組織の連合体「プロジェクト2025」が提唱してきた内容と一致している。
元側近の多くが深く関与していたにも関わらず、トランプ氏は昨年、このプロジェクトについて何も知らないと述べて距離を置いていた。しかし、新政権の運営に対する同プロジェクトの影響は明白だ。
プロジェクト2025は国家安全保障会議のキャリア官僚の追放を提唱していた。
また、プロジェクトが推進し、トランプ氏が既に採用した政策の1つは、「スケジュールF」と呼ばれる連邦職員の新たなカテゴリーを創設することで、最大数十万人に上る公務員の解雇を容易にするというものだ。
バノン氏は「筋金入りのトランプ氏信奉者である政策担当者や政治家の中には(中略)、21年に早速、同氏のホワイトハウス復帰に向けて動き出した人々もいる」と話す。「それが今、実を結びつつあるのだ」
<権力の絶頂か>
トランプ氏の政策は今後、障害に直面するだろう。政権発足からの数週間が、トランプ氏の権力の絶頂期になるかもしれないと認める支持者もいる。
トランプ氏が出した大統領令の多くは、憲法上の法の限界を試すものとなっている。出生地主義(米国で生まれた者はほぼ自動的に市民権を得るという憲法上の原則)の廃止に向けた命令は、既に連邦裁判所によって差し止められた。
その他の公約や命令についても、複数の州や支援団体から即座に訴訟を起こされている。就任1週目の衝撃と畏怖は、トランプ氏の任期の大半にわたって続く訴訟の泥沼へと続く可能性がある。
下院において共和党は僅差で過半数を占めているが、2年後の議会中間選挙では過半数を維持できるかどうかが問われるかもしれない。現職大統領の政党は中間選挙で議席を失うことが多い。そうなればトランプ氏にとって、今でも厳しい立法の道が完全に閉ざされることになる。
司法問題についてトランプ氏に助言する側近、マイク・デイビス氏は「トランプ氏は米政府に劇的な改革をもたらすことを米有権者から明確に負託されている」とし、「約束を果たさなければ、そして迅速に果たさなければ、その政治的負託は色あせてしまう」と語った。
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