ニュース速報
ワールド

アングル:トランプ政権なら対中外交「漂流」か、米側要人なお制裁対象

2024年09月13日(金)19時18分

9月12日、 米大統領選共和党候補のトランプ前大統領(写真)は、選挙戦で掲げる外交政策の柱に中国に対する強硬姿勢を据えている。ニューヨークで11日撮影(2024年 ロイター/Mike Segar)

Michael Martina

[ワシントン 12日 ロイター] - 米大統領選共和党候補のトランプ前大統領は、選挙戦で掲げる外交政策の柱に中国に対する強硬姿勢を据えている。

しかしトランプ氏が返り咲いた場合、同氏と中国指導部の双方には気まずい現実が待ち受ける。「トランプ政権」で外交の重要ポストに就きそうな人物の多くが中国による制裁対象になっており、入国を禁止されているからだ。

2021年にバイデン大統領が就任するとすぐ、中国は反中国的な政策を推進したとみなしたトランプ前政権時代の高官28人に制裁を発動した。これは、トランプ氏がもう政権の座に戻ってくることはないとの賭けだった。

中国への渡航禁止などを盛り込んだこの制裁は、国務長官だったマイク・ポンペオ氏や、安全保障担当大統領補佐官を務めたロバート・オブライエン氏らが対象。中国側はポンペオ氏を「うそつき」「道化師」などとののしった。

そのポンペオ氏は、トランプ氏の2期目が決まれば政権入りを否定していない。トランプ氏とオブライエン氏の関係に詳しい関係者の話では、オブライエン氏も2期目で重要な役割を果たす公算が大きい。

最も控えめな言い方をしても、トランプ氏の政権になって中国が公然と敵視する人物がその要職者として加わっている状態は、世界でも最も重要とみなされる米中関係を果たして両国がどのようにかじ取りしていくのか疑問を投げかけることになる。

復旦大学米国研究センターの呉心伯主任は「これは中国にとって新たな問題だ。以前に制裁した人物が米政権に復帰したとしても、中国の立場で制裁がすぐに解除される確率は極めて低いと思う」と述べた。

しかし複数の専門家らは、中国側が対処を迫られると指摘する。

トランプ前政権高官で中国の制裁を受けつつ今も米政府のために働くある人物はロイターに「中国は譲歩しなければならない。そうでないと(米国は)中国共産党との間でいかなる合意も成立しなくなるだろう」とくぎを刺した。

トランプ陣営の広報担当者は「トランプ氏は、国民のために最適な働きをするとみなす人びとを選んで政権に起用し、米国第一を推進する。中国が好むか好まないかは関係ない」と説明した。

<ポンペオ氏への反感>

中国は21年1月、「重大な内政干渉」という「常軌を逸した行動」に関与したとの理由で個人名を挙げたトランプ前政権高官10人と、それ以外に氏名を特定せずに18人に制裁を科すと発表した。

10人の中にはポンペオ氏、オブライエン氏のほかに、通商担当大統領補佐官だったピーター・ナバロ氏や、東アジア外交責任者だったデービッド・スティルウェル氏らが含まれていた。

これらの人びとは、両国の貿易戦争を引き起こした制裁関税の導入や、中国が新疆ウイグル自治区でジェノサイド(民族大量虐殺)を行ったとの宣言などを通じて、トランプ氏の対中強硬路線を実行してきた。

特に中国側が反感をあらわにしているのが22年に民間人として台湾を訪れ、米政府に台湾との正式な国交樹立を求めたポンペオ氏で、信頼を失墜させた「元政治家」と同氏をこき下ろした。

ポンペオ氏は7月の共和党全国大会で、次のトランプ政権で仕事をするのは「最高の名誉」だと語り、中国を米国にとって「最大の脅威」に認定した。

<打開策>

これまでも米中が互いの政府高官に制裁を科す動きが、両国関係に波乱をもたらしてきた。

例えば昨年、中国がオースティン米国防長官との国防相会談を拒否し、数カ月にわたって対話が途絶えたのは、当時国防相だった李尚福氏が米国の制裁対象だったことへの不満からだった。その後に李氏が規律違反を理由に国防相を解任されると、この問題は収束している。

カンザス大学で中国の制裁を研究するジャック・チャン氏は、21年の中国による制裁発動は反外国制裁法に基づいて米国の措置に対抗したものだけに、緩和は難しいとの見方を示した。

それでも打開策はありそうだ。

例えば両国の制裁対象となった高官は、それぞれの本国ではなく第三国で会談を設定することは可能。さらに専門家の1人は、中国がトランプ氏の代理人的な立場の人びとを通じて外交の裏ルートでメッセージを送ったり、制裁対象になっていない高官同士の協議を開催したりすることもできると述べた。

トランプ前政権の国家安全保障会議(NSC)メンバーだったイバン・カナパシー氏は、中国が制裁を一時的に停止する方法を用いる可能性があると予想。「常に法の支配よりも政治が優越する中国なら、指導部が事務方に(米高官と会えと)示唆するのは簡単だろう」とみている。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ヒズボラ通信機器爆発、イスラエルが台湾製端末に爆発

ワールド

バンス氏発言は「危険」とホワイトハウス、トランプ氏

ビジネス

機械受注7月は予想に反し0.1%減、「景気のけん引

ビジネス

仏経済は今後2年で勢い拡大、インフレ率低下で個人消
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...試聴した「禁断の韓国ドラマ」とは?
  • 2
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰だこれは」「撤去しろ」と批判殺到してしまう
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 5
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 6
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 7
    原作の「改変」が見事に成功したドラマ『SHOGUN 将軍…
  • 8
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 9
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 10
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 5
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 6
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 7
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 8
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...試聴した「禁…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 8
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 9
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 10
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中