アングル：楽しみと消費重視の韓国Ｘ・Ｙ世代、少子化対策も効果出ず

　８月２７日、 韓国政府は出生率の急激な低下を食い止めようと、長年様々な取り組みを行ってきが、なかなか成果は出ていない。写真は２０２２年３月、ソウルの高級ブランド店前に行列する人々（２０２４年　ロイター/Heo Ran）

Jihoon Lee　Cynthia Kim　Joyce Lee

[ソウル　２７日　ロイター] - 韓国政府は出生率の急激な低下を食い止めようと、長年様々な取り組みを行ってきが、なかなか成果は出ていない。おしゃれな服や高級レストランでの食事にお金を使いたい２０代、３０代に、子どもを持つ方が良い投資になると説得する努力は難航している。

インスタグラマーで歌手を目指すパク・ヨンさん（２８）は気の向くままに服や旅行などに散財し、結婚や子どもに割くお金はほとんどない。

「私のモットーはＹＯＬＯ（you only live once＝人生は一度きり）。自分へのごほうびを買ったら毎月たいした金額は残らない。いつか結婚するかもしれないけれど、今の幸せの方が大事。そうじゃない？」

韓国は出生率が世界最下位の状態が続き、昨年も過去最低を更新した。専門家らは、２０代、３０代のいわゆる「Ｙ世代」や「Ｚ世代」について、他の国や年齢層と比べても平均して消費が多くて貯蓄が少なく、家庭を築くことの妨げになっている指摘している。

ソウル女子大学のチョン・ジェフン教授は「この世代はステータスを追求している。若者の旺盛な消費習慣からは、家庭を築いて子どもを持つという達成不可能な目標に向けて注力するのはやめて、オンライン上で成功の証を作り上げようとしていることが読み取れる」と分析する。

過去３年間の積極的な利上げも若者の消費を抑えることはできなかった。

韓国銀行（中央銀行）の統計によると、３０代の貯蓄率は５年前の２９．４％から今年第１・四半期は２８．５％に低下した。他の全ての年齢層では上昇した。また２０代、３０代は百貨店や高級ホテルにおける最大の顧客層となっており、過去３年間でこの世代の旅行支出は３３．３％から４０．１％に高まった。

現代カードのデータによると、今年５月までの過去３年間で２０代が高級百貨店で消費した金額の割合は全体の１２％とほぼ倍増したが、他の年齢層では割合が低下した。

市場調査会社ユーロモニターによると、昨年は高級ビュッフェレストランの売上高が３０．３％増加したのに対して、ファストフードは１０．５％、外食業界全体は９％の増加にとどまった。

インスタグラムの人気スポット、高級ホテルのソウルドラゴンシティでは、季節限定イチゴデザート食べ放題メニューが１２．５％値上げされ９万ウォン（約９８００円）になったにもかかわらず、売り上げは昨冬から１５０％も増えた。

対照的に、コモンウェルス銀行によると、オーストラリアでは今年第１・四半期に２５―２９歳の若者の消費が前年同期比で３．５％減少した。生活費の上昇が原因だという。

モルガン・スタンレーは昨年、韓国人は高級志向が強く、１人当たりの高級ブランドへの支出が世界で最も多いとの調査結果を公表した。韓国は高級ブランド各社にとっても重要な市場となっている。

高級ブランドのシャネル、セリーヌ、ディオールはいずれも、「ＮｅｗＪｅａｎｓ（ニュージーンズ）」や「ＢＬＡＣＫＰＩＮＫ（ブラックピンク）」など１０代に人気のＫ―ＰＯＰグループと世界ブランドアンバサダー契約を結んでいる。

＜喜びと苦痛＞

もっともＰＭＩが５月に実施した調査では、子供を持たない理由として経済的困難を挙げる人が最も多かった。１８００人の回答者の約４６％が仕事の不安定さや教育費を挙げた。

さらに追い打ちとなっているのが収入の伸びの鈍さだ。韓国統計局によると、昨年の２０代と３０代の年収の伸びは２．０％にとどまり、全世帯の４．５％を下回った。

ただチョン氏は、若者がより直接的な楽しみを重視していることも、補助金を柱とする政府の出生率向上策の効果が上がらない原因の一つだと指摘する。

尹錫悦政権はパイプカットを元に戻す手術への補助金のほか、新生児がいる家庭への現金支給、無料のタクシーサービス、有給育児休暇の延長など数十件もの政策を打ち出してきた。だが成果が出なかったことから、今年５月には新たに人口問題に特化した政府機関の設立計画を発表した。

ピュー・リサーチ・センターが２０２１年に先進１７カ国を対象に実施した「人生に意義をもたらすものは何か」という調査で韓国は唯一、物質的な豊かさが回答のトップとなった。他の国では、家族や健康が１位だった。

前出のパクさんにとって子どもを持つことは、歌手としてやっていけるようになってから考えればよい問題だ。

「今やっていることがうまくいけば、貯金や結婚なども自然とついてくる。今は自分の人生を楽しみ、夢の仕事に取り組むことが何よりも大事」と話した。