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アングル:中国で「シルバーツーリズム」台頭、ターゲットは活発な退職者

2024年08月19日(月)07時04分

中国で「シルバーツーリズム」が台頭している。写真は2023年9月、上海の観光名所、外灘(バンド)で休憩する観光客(2024年 ロイター/Aly Song)

Farah Master Casey Hall

[香港/上海 16日 ロイター] - 中国で「シルバーツーリズム」が台頭している。旅行会社は、看護師が同行するなど工夫を凝らした高齢者向け割引ツアーによって、観光業界にコロナ禍前の好景気が戻るのではないかと期待を寄せる。

中国では急速に高齢化が進み、中間層の多くは雇用不安や経済の減速に直面している。そうした中で裕福な沿岸都市を中心に、退職して国内外に旅行する人々が増えている。

これら高齢者の多くは、40年続いた高成長期に多額の貯蓄を蓄えてきた。女性は50歳、男性は60歳という若さで退職するため、従来の高齢旅行者より若いのが特徴だ。孫がいない人も多いため、自由な時間も多い。

現在、中国内外の企業や現地の旅行当局は、拡大するこの層特有のニーズに合わせたサービスを提供し始めている。

バイキング・クルーズ・チャイナの商品開発・マーケティング担当シニア・バイスプレジデント、ウィー・フーン・タン氏は「裕福なだけでなく、より重要なこととして質の高いライフスタイルの追求や自己啓発に支出を惜しまない高齢の中国消費者層が拡大し始めている。これは大きな消費マインドの変化だ」と言う。

現在50歳から60歳の中国人は約3億人と、米国の全人口にほぼ匹敵し、今後10年間で退職する見通しだ。中国老齢工作委員会は、2040年までに国内旅行の50%をシルバートラベルが占めるようになると予測している。

スイスのクルーズ船運営会社バイキング・クルーズと上海老年大学は6月、アジアの沿岸部やヨーロッパの河川を巡る旅程に歴史・文化の授業を組み合わせる提携を発表した。

バイキングのクルーズ船はバリアフリーのエレベーター、廊下やシャワーの手すり、フォントの大きなテレビリモコン、高齢者の目に優しいアメニティグッズなどを完備。朝食用に早朝から生麺バーもオープンする。

上海鉄道局も今年から、「地方の習慣や国の資源の多様性」を体験したい50─70歳の旅行者をターゲットに、風光明媚なルートを走る長距離観光列車を10本導入した。

黄山東部の断崖絶壁や麗水市の棚田を通る長距離観光列車には看護師が常駐し、医療サービスを提供する設備が整っている。

昨年退職し、中国や東南アジアを旅しているタオ・ウェンさん(56)は、いつでも医療サービスが受けられるのは「安心だ」と言う。

「企業は、私たちの消費習慣が若い人たちとは異なることを理解する必要がある。私たちは費用対効果を重視する」とタオさんは語った。

ホテルチェーンのヒルトンも中国で、65歳以上の高齢者に最大6%のシニア割引を提供し、お茶の試飲会や健康維持のためのクラスを開催している。

グレーターチャイナ圏のヒルトンでシニア・バイスプレジデントを務めるウェンディ・ホァン氏は、高齢者ブームは「一目瞭然だ」と語った。

<緑茶とスリッパ>

中国の観光学会は、来年には国内のシルバーツーリズム市場の規模が年間1兆元(1399億ドル)に達し、アクティブな高齢旅行者の数が1億人を突破すると予測している。

中国最大のオンライン旅行代理店、トリップ・ドット・コムのトップ、ジェーン・サン氏は、高齢旅行者はオフピーク期を選んでホテルの割引を最大限に活用することができると指摘。世界中の提携企業に対し、朝食に中国料理のルームサービスを提供するよう助言しているというサン氏は「緑茶用の急須やスリッパを備品に加えても大した費用はかからないが、年配世代に母国にいるような安らぎを提供できる」と語った。

ロイター
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