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アングル:頻繁なインドのネット遮断、女性の人権侵害を助長

インドでは先週、北東部マニプール州で武装した男たちの間を2人の女性が裸で無理やり歩かされ、暴行を受けている動画がソーシャルメディアに出回った。写真は7月21日、この事件に抗議するため役所前に集まった人々(2023年 ロイター/Biplob Kumar Das)
[27日 トムソン・ロイター財団] - インドでは先週、北東部マニプール州で武装した男たちの間を2人の女性が裸で無理やり歩かされ、暴行を受けている動画がソーシャルメディアに出回った。州政府がそれまで3カ月近くにわたってインターネットの接続を遮断していたため、5月4日に起きたこの忌まわしい事件がようやく明らかになった。当局は捜査を進めており、複数の男を逮捕したとしている。
州政府は5月3日にネットの接続遮断を開始したが、うわさやデマを抑え、少なくとも125人が死亡した部族間の暴力的な衝突を鎮めるためにもこうした措置が必要だったと主張する。
しかし人権活動家らは、これまでインド国内で最も長かった同州のネット遮断によって、当局や報道関係者は、その多くが女性に向けられる人権侵害に気づきにくくなるという弊害が鮮明になった、と批判した。
メガラヤ州の日刊紙の編集長で、人権保護にも取り組むパトリシア・ムクヒム氏は「ネット遮断がなければ、このような動画は2カ月余り早く公開され、この恐ろしい事態にも迅速な対応が可能だったし、ほかの同じような事件の発生を阻止できたはずだ」と憤る。
ムクヒム氏は「ネット遮断自体が人権侵害で、人々の自由を抑圧し、暴力事件のニュースを封じ込め、犯罪者を野放しにすることになる」とトムソン・ロイター財団に語った。
ヒューマン・ライツ・ウオッチ(アジア)のアソシエートディレクター、ジェイシュリー・バジョリア氏は、ネット遮断が女性の安心できる環境を損ない、彼女たちの移動の自由を制限すると指摘。マニプールの女性に対する恐るべき暴力の動画がソーシャルメディアに投稿されたことでようやく当局が対応に動いた点から見ても、犯罪の情報伝達や証拠提示の上でネットの重要性が証明されたとの見方を示した。
マニプールの裁判所が州政府に「限定的な形」でネット接続を再開するよう命じた後、政府は25日に「条件付き」でブロードバンド通信サービスの遮断を解除した。
ただ、ソーシャルメディアのウェブサイトや公衆無線LAN、VPN(仮想プライベートネットワーク)、移動インターネット回線など多くの人が利用している通信手段はまだ止められたままだ。
<農村部や社会的弱者に打撃>
デジタル人権団体アクセス・ナウによると、インドは2022年まで5年連続世界で最もネット遮断回数が多い国だ。
インド最高裁は20年に、遮断には公式な命令が必要との判断を示したが、しばしばこれが守られず、期限も定められないケースが見受けられる。
アクセス・ナウは5月のリポートで「当局はネット遮断の根拠の1つとして暴力発生を挙げるが、遮断によって暴力が減少した証拠はなく、むしろかなりの程度でその逆が起きている」と分析した。
マニプール州のケースでは、5月3日に少数部族クキ族が多数派のメイテイ族と同じ待遇を求める抗議デモに端を発した暴力事件がネット遮断へとつながった。
連邦政府はすぐに治安部隊や軍を派遣したものの、緊張状態は収まらず今も時折、殺人や暴動が発生している。
デジタル人権団体ソフトウエア・フリーダム・ローセンターのデータに基づくと、この北東部地域はインドで最も開発が遅れ、ネットのアクセスは不安定で遮断も頻発する。
一方インドはより多くのサービスがデジタル化されており、ネットが使えなくなると農村部や社会福祉に依存する脆弱なグループが特に大きな痛手を受ける、とヒューマン・ライツ・ウオッチとインターネット・フリーダム・ファウンデーション(IIF)は最近のリポートで明らかにした。
<とてつもない犠牲>
インド当局はネット遮断に加え、特定のウェブサイトをブロックしたり、ソーシャルメディア企業にコンテンツの削除を命じたりもしている。アクセス・ナウの調査では、インド政府が発出したソーシャルメディアの投稿やアカウント削除命令件数は昨年7000件近くと、21年の6000件から増加した。
インド国民の大半で、特に農村部で利用されているスマートフォンでネット接続ができなくなるのが問題だ。
ヒューマン・ライツ・ウオッチとIIFのリポートからは、これによって農村部女性の教育や生活に深刻な悪影響が及ぶことが分かる。
例えばインドでカシミールに次いでネット遮断が多い北西部ラジャスタン州は、州政府の雇用保障プログラムの下で働く人の過半数を女性が占め、勤怠管理と賃金支払いはデジタル化されているため、しばしば起きるネット遮断のせいで多くの女性が仕事にならないか、賃金を受け取れない、とヒューマン・ライツ・ウオッチのバジョリア氏は説明。「ほとんどの女性は社会的、経済的に(発展から)置き去りにされた家庭の出身で、ネットが使えなくなれば状況がさらに悪化してしまう」という。
マニプール州の非営利開発団体で働くニングルン・ハンガル氏は、同州におけるネット遮断は女性が家族とワッツアップで気軽にやり取りし、ニュースのチェックやスマホ決済をするのが不可能になることを意味すると話す。
ハンガル氏はネットが遮断され在宅勤務ができなくなった後、13時間かけて隣のアッサム州に働き場所を移したが、彼女と違って移動もままならない女性の場合は、厳しい環境に置かれる。「より多くのうわさやデマが飛び交い、何が本当か確かめるすべもない」という。
「女性たちは孤立し、安全を脅かされていると感じ、とてつもない犠牲を強いられている。ネットが全面的に再開された際には、もっと多くの暴行や虐待の事件が明るみになるのは間違いない」と同氏は警告している。
(Rina Chandran記者)