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アングル:米大学入試の「人種考慮」変わるか、最高裁判断に注目

5月24日、米カリフォルニア州で1998年、公立大学の入学者選抜における「アファーマティブアクション(積極的な差別是正措置)」を禁止する住民投票決議が発効した。写真は2018年5月、マサチューセッツ州ケンブリッジで行われたハーバード大の卒業式(2023年 ロイター/Brian Snyder)
[ワシントン 24日 ロイター] - 米カリフォルニア州で1998年、公立大学の入学者選抜における「アファーマティブアクション(積極的な差別是正措置)」を禁止する住民投票決議が発効した。すると、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とカリフォルニア大学バークレー校で黒人や中南米系、先住民系の入学者数が50%余りも急減した。
これらの数字は、学生の多様化を推進している全米の大学運営当局にとって警戒を要する数字と言える。米連邦最高裁が6月末までに、これまでの判例を覆して、カリフォルニア州のようなアファーマティブアクション禁止措置を米国全体に適用するのを認める判断を下すと予想されているからだ。
最高裁が現在審理しているのは、ハーバード大学とノースカロライナ大学(UNC)で入学選抜時に人種を考慮することが許されるかどうかを巡って争われている2つの訴訟。
ロイターが十数カ所の大学の幹部に取材したところ、最高裁の判断次第で学生構成における人種や民族の多様性を維持したり、高めたりする取り組みが危機にひんしかねないとの懸念が示された。
カリフォルニア州のポモナ・カレッジの入学選考責任者、セス・アレン氏は「教育熱心で公平な社会の実現という目標に国家全体として逆行するのは決して許されない。だから異なる学生グループ間の入学格差をこれ以上広げない道を確保するため、どのように一致協力していくかを模索するのが、今の高等教育機関で働く人たちの責任だ」と述べた。
多くの米国の大学は過去数十年間にわたり、何らかのアファーマティブアクションを導入し、マイノリティーの学生の入学を増やしてきた。
背景には、それが教育の機会提供だけでなく、キャンパスにさまざまな視点をもたらす上で、多様な学生層を受け入れることに価値があるという考えがある。
各校は多様性をさらに強化する上で、さまざまな対策を検討しているところだ。ヒューストンのライス大学のある幹部は、同校が幅広いバックグラウンドの学生を入学させるため、論文試験を重視すると話した。空軍士官学校は、さまざまな人種が暮らす地域からの学生勧誘に力を入れるという。
ニューヨークのスキッドモア・カレッジの学長は、応募者の層を広げるには高校のカウンセラーとの連携が一段と大事になるとの見方を示した。
多くの大学は、既に学費免除や標準化された試験への選択制導入に踏み切ったほか、経済的支援の拡充を検討中。いずれもマイノリティーの入学促進に役立つ措置だ。
ただ、最高裁が下す判断の内容次第では、こうした計画の変更を迫られる恐れがある、と取材した全ての大学運営当局者は口をそろえた。
アファーマティブアクション禁止命令が出された場合に、何かすり抜ける手だてを打ち出したとしても、それで訴訟に直面するかもしれないと心配する声も聞かれる。
ワシントン州にあるハワード法科大学院トップのダニエル・ホリー氏は「大学がこれから採用する新たな入学基準に起因する訴訟が起こされそうだ」と身構える。
最高裁が審理中の2つの訴訟は、入学者選抜においてハーバード大学がアジア系を、UNCは白人とアジア系を不当に差別していると申し立てがあり、両校がこれを否定するという構図になっている。
<勧誘活動に注力>
こうした中で大学運営当局者の多くは、最高裁による制限の範囲にならないと見込まれる入学者勧誘活動に注力しようとしている。
その一環として、マイノリティーが多い所得や教育水準が低い地域にある高校や地域団体との接触を強化しているという。
カリフォルニア州のピッツァー・カレッジの入学担当幹部、イボンヌ・バーメン氏のチームは、狙いを定めた地域の高校で論文作成教室を開催し、応募につなげたい意向だ。
ミネソタ州のセント・オラフ・カレッジの入学担当部門責任者、クリス・ジョージ氏は、カレッジ・ボードなどの全国組織が提供してくれる地域の所得や住居の安定性に関するデータが、どの高校にチームを派遣して勧誘イベントをすれば良いかを判断する上で役立つと明かした。
また、複数の大学運営当局者によると、どの学生が有望かを把握し、彼らの応募手続きを支援してくれる地域団体が、多様なバックグラウンドを持つ応募者を集めるための重要なパートナーになるだろうという。
ロサンゼルスに近いポモナ・カレッジやニューヨークにあるサラ・ローレンス・カレッジなど都市近郊の大学の運営当局者は、人種構成が多様な高校からより多くの学生を取り込み、地域のコミュニティーカレッジからの転校生も増やすと意気込んでいる。
空軍士官学校の入学担当ディレクター、アーサー・プリマス・ジュニア大佐は、人種多様性勧誘チームが引き続きマイノリティーが集中する地域の高校を訪れ、より多くの学生が地元議員からの推薦をもらえるよう取り組んでいくと語った。
(Gabriella Borter記者)