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情報BOX:トランプ氏の弾劾裁判、その後に残された法的疑問
2月17日、トランプ前米大統領の弾劾裁判は米国の政治を新たな法的領域に引き入れた。写真は1月6日、トランプ氏支持者らに侵入された米議会(2021年 ロイター/Leah Millis)
[17日 ロイター] - トランプ前米大統領の弾劾裁判は米国の政治を新たな法的領域に引き入れた。退任間際の大統領による非行の疑いという問題にどう対処するかを巡り、答えが出ないことも浮き彫りにした。
1月6日のトランプ氏支持者らによる連邦議会襲撃について、米下院は襲撃を扇動したとしてトランプ氏の弾劾訴追決議を可決した。しかし、上院の今月13日の評決は有罪支持57、無罪43で、有罪支持が出席議員の3分の2に届かず、無罪となった。
今回の弾劾裁判は以下のような疑問点を提起した。いずれの点も連邦最高裁によって過去に審理されたことはなく、現状では明確な回答を示すことはできない。
<退任した大統領の弾劾裁判は合法か>
米憲法は退任した大統領が弾劾裁判の対象になることを認めているのか。トランプ氏の弾劾裁判はこの重要な疑問をめぐる論議に火をつけた。
トランプ氏側の弁護団は、上院の権限は現職大統領を有罪にすることに限定されるとし、それは憲法の弾劾条項の文言と目的が明らかにしている、と主張した。
上院は弾劾裁判を進める動議を56対44で可決している。つまり、実質的には、そうした弁護団の主張は退けられた。56人の賛成には法的根拠もしっかりある。この問題を研究してきた法律学者の大半が、今回のような「退任後の弾劾裁判」は合法だとの結論を出している。任期末期に非行を働いた大統領は、大統領の責任を問う憲法手続きから免責されるべきではないという。
結局、この問題は解決されなかったし、法廷に持ち込まれない限りは解決されないままになる可能性が高い。
ミズーリ大学のフランク・ボウマン法律学教授によると、トランプ氏の弾劾裁判での上院の評決は将来に渡って上院議員を拘束するものではない。このため、この問題は将来の何らかの弾劾裁判で改めて検討されるかもしれないという。
「弾劾は一種、政治手続きであって、法的手続きではない」。「この点でいかなる議会も将来の議会を縛ることはできない」というのがボウマン氏の見解だ。
<弾劾に値する行為は刑事法違反としての認定が必要か>
憲法は「重罪と不品行」を働いた大統領には弾劾ができるとしている。
トランプ氏側は、弾劾相当の行為とは米国の法律で犯罪と見なされるものでなければならないと主張してきた。弁護団もこの論法を取り、米国の刑事訴追上で「扇動」と解釈される行為にトランプ氏は関与していないとし、弾劾不相当だとした。
しかし、ミズーリ大のボウマン氏によると、法学者はこれまで何度もこの主張を否定している。「重罪と不品行」の言葉が使われてきた過去の例からは、実体的には刑事法の範囲を超えることが確立されてきたというのがボウマン氏の主張だ。
ミシガン州立大学のブライアン・カルト教授(法律学)も同意する。カルト氏によると、議会はこの問題をきちんと解決してこなかったし、最高裁によっても解決されないという。同教授は、最高裁が1993年に、この問題が根本的に政治的なものであり、解決は上院によらねばならないとの判断を明確にしたとしている。
<弾劾は大統領の非行を正す仕組みとして有効か>
憲法は、大統領を弾劾したり非行を告発したりするために下院が必要なのは単純過半数票だけだと明確にしている。しかし、大統領を有罪にするには、100議席の上院の3分の2の賛成が必要になる。現在の上院議席は民主党と共和党が伯仲している。
ミシガン州立大のカルト氏によると、今回の弾劾裁判は、たとえ有罪にできる見込みが薄いと分かっていても、対立政党の大統領の弾劾を喜んで進めようとする下院の実態を示唆した。この点からは、弾劾の目的についての大きな疑問が出てくるという。
カルト氏は「有罪にできないだろうと分かっていながら弾劾に進む目的とは何だろうか。その場合に繰り広げられることは一体何なのだろうか」と問い掛ける。トランプ氏の弾劾裁判はある意味、政治的な、また歴史への記録を目的とした民主党の「広報活動」だったと指摘。「弾劾は、他のいかなる方法でも得がたいような国民の注目を集めることができる」と評した。