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焦点:守勢のタイ王制支持派、「国王の意思」力に反転攻勢の構え
10月25日、抗議デモに包囲された首相府は、ワチラロンコン国王が散策する写真をツイッターに投稿した。写真はバンコクで22日、国王の写真を掲げる王制支持派(2020年 ロイター/Chalinee Thirasupa)
Chayut Setboonsarng and Matthew Tostevin
[バンコク 25日 ロイター] - 抗議デモに包囲された首相府は、ワチラロンコン国王が散策する写真をツイッターに投稿した。付されていたハッシュタグは、「#KingKeepFighting(王は戦い続ける)」である。
抗議デモによるプラユット・チャンオチャ首相への退陣要求、そしてタイ王制にとって数十年来で最大の試練に直面して、王制支持のエスタブリッシュメント(支配層)は、反撃に向けた勢力結集を図ろうとする素振りを見せつつある。
抗議デモがますます王制批判の色を強める中で、王宮は数カ月にわたり沈黙を保ってきた。だが、2014年に権力を掌握した軍事政権のトップだったプラユット首相に対し、国王は22日に支持する素振りを示し、24日には反政府デモ参加者に対抗した王制支持派デモ参加者を称賛した。
王制支持派はこれに勇気を得た。
強硬な王制支持派の自警団組織を率いるリャントン・ナンナ氏はこの週末、フェイスブックへの投稿で「国王に敵対する政治家、リーダーたちは、タイ王国から逃亡する準備はできているか。お前たちの命運はほぼ尽きた」と恫喝した。
抗議参加者たちは当初プラユット首相を標的にしていたが、その後、王室の権力制限も求めるようになった。抗議デモの収拾に向けて厳しい緊急措置が実施されてから1週間、デモの規模は拡大するばかりだ。
抗議参加者の主たるターゲットは、依然としてプラユット首相である。だが、9カ月前に亡くなった同首相の父親の葬儀が22日に行われたとき、国王もこれに参列した。
そして24日、広範囲に報道されるタイミングで、国王は抗議デモ参加者に対抗した男性について「とても勇敢で素晴らしい。感謝している」と述べて激励した。
タイ国民は、これが何を示唆するか読み取っている。
バンコクのマヒドル大学インターナショナルカレッジのジェームス・ブキャナン講師は「国王は態度を明示した。彼はこの戦いに参加しており、民主主義を求める若者の運動に抵抗する王制支持者・ナショナリストを支持する側にいる」と語った。
政府業務コンサルタント企業、アジア・グループ・アドバイザーズのパートナーであるナッタボーン・ジャングサンガンシット氏は「(国王の)動きは、支配層が結束を強め、態勢を整えていることを示唆している」と話す。
「緊張が高まり、衝突のリスクが増している。状況が悪化すれば、政府はさらに強硬な手段を用いる口実にする可能性がある」と同氏は言う。
政府は抗議デモ参加者との対話を模索していると述べているが、最も著名なデモ指導者の一部は拘束されている。
アヌチャ・ブラパチャイスリ政府報道官は「今は団結して、いかにして前に進んでいくかを考えるべきだ」と述べている。
抗議活動はこれまでのところ、概ね平和的に行われている。これまでに警察が放水を行った例では、怒りをさらにかき立てるだけに終わった。
<大学構内での衝突>
だが、先週は危険な兆候も見られた。黄色のシャツを着た数十人の王制支持者が、ラムカムヘン大学で学生たちと小競り合いになり、学生らが負傷者1人を抱えて後退したため、勝利を宣言したのである。
タイ国民は、黄シャツと赤シャツ、つまり王制支持者とポピュリスト指導者、タクシン・チナワット氏の支持者が市街地で衝突を繰り返した10年間を忘れていない。そして、そうした混乱を口実として利用し、2014年に権力を握ったのがプラユット氏なのだ。
ナレスアン大学のポール・チェンバース氏は「暴力的で強硬な王制支持派のデモが平和的・進歩的な抗議デモと衝突すれば、王室に支持された軍事クーデタが起きかねない」と語る。
王制支持派の一部の指導者は、暴力を否定している。彼らにとって、王制は政治を超越した存在であり、王制を擁護することは政治的ではない。
だが、自警団組織のリーダーである前出のリャントン氏は、大学構内での小競り合いは普通のことだと位置付け、さらに厳しい行動への支持は高まっていると話す。「王権に対する侵害が拡大するようなら、王制支持派は座視してはいない。暴力をエスカレートさせることにちゅうちょしないだろう」と記者らに語った。
<明らかな敵意>
反政府抗議デモの参加者は、非暴力的なアプローチを強調しつつも、憂慮している。
抗議の先頭に立つジュタチップ・シリカン氏は「彼らの一部は明らかに我々に敵意を抱いている」と話す。
大学での衝突に介入した警察は、誰に対しても公正に振る舞い、暴力を阻止すると語る。
先週、非常事態宣言を解除した際、プラユット首相は、国会で危機を解決できるよう、事態が沈静化することを願っていると語った。特別国会は26日に開会するが、抗議デモ参加者は国会をほとんど信頼していない。
国会で圧倒的な多数を握っているのは、プラユット派である。昨年の総選挙以前に、軍が上院議員全員を選んでしまっており、総選挙についても野党側はプラユット政権維持のために不正が行われたと主張している。プラユット首相は、選挙は公正だったと述べている。
抗議デモ参加者と野党政治家たちは、プラユット首相が時間稼ぎをしているのではないかと疑っている。「プラユット将軍が、そう簡単に屈服すると想定するわけにはいかない。国王が全面支持をチラつかせている以上、なおさらだ」と語るのは、シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所のタームサク・チャレルムパラヌパップ氏。
王制支持者によるイベント開催は増加しており、1カ月前にはほとんど見られなかったのが、現在ではほぼ毎日集会が開催されている。
これまでのところバンコクでは、反政府抗議デモに数万人が集まるのに対して、王制支持派の集会はせいぜい200─300人規模に留まっている。
だが、バンコク以外では黄シャツの人々が数千人も集まるなど、動員が拡大している兆候がある。ただし、群衆の中には国営企業の従業員が含まれている場合もある。
タイ国民の多くは今後の展開を憂慮している。
国立開発行政研究所が行った世論調査によれば、タイ国民の60%近くが、対立するグループ同士の、あるいは他の当事者による介入に伴う暴力を懸念しているという結果が出ている。
(翻訳:エァクレーレン)