ニュース速報

ワールド

焦点:中国でイルカやシャチの闇取引懸念、マリンパーク急増で

2018年09月29日(土)08時30分

上海で建設中の海昌海洋公園のオーシャンパーク。8月撮影(2018年 ロイター/Aly Song)

Farah Master

[香港 20日 ロイター] - 屋内に設置された明るい水色のプールから、8頭のシロイルカが尾びれをひるがえし、大きな水しぶきをたてて、一斉にジャンプした。満員の観衆は大喜びで拍手し、写真を撮影している。

中国南部の海沿いの町、珠海にある珠海長隆海洋王国で行われているこうしたイルカショーが、いま中国全土に新設されているマリンパークで広がりつつあり、希少な海洋生物に対する需要が急増していると、科学者や実業家、活動家が指摘している。

シャチやシロイルカなどの海洋生物を巡っては不透明な取引が行われており、1頭あたり数億円単位で取引されることもあるという。また、違法に捕獲されていることが多い。

中国各地では、毎月のように新たなマリンパークや水族館がオープンしており、今後2年で36件以上の大規模施設の建設が予定されている。生きた動物を使ったショーが、幅広い反対によって取り止めになっている欧米の状況とは、対照的な動きだ。

「西側諸国ではマリンパークを成功裏に閉鎖させてきたが、中国は、『今度は自分たちの番だ』と言わんばかりだ」と、動物愛護団体ドルフィン・プロジェクトの創設者リック・オバリー氏は語る。

国内旅行ブームに後押しされ、テーマパーク運営・不動産開発を手掛ける海昌海洋公園<2255.HK>や広州富力地産<2777.HK>、大連聖亜、長隆グループといった企業が、この業界の急成長を牽引している。

海昌海洋公園が11月にオープンする予定の上海海陽公園や、長隆海洋王国では、中国初となるシャチショーの準備を進めている。

1970年に海洋哺乳類の捕獲に反対する運動を立ち上げる以前には、イルカやシャチの捕獲や訓練を担当した経験のあるオバリー氏によると、この業界をいま世界的に牽引しているのが中国だという。

中国では、長隆海洋王国のような大規模施設から、他の集客施設に付随した小規模なものに至るまで、すでに60カ所のマリンパークが営業していると、業界幹部は話す。

長隆グループや海昌海洋公園、大連聖亜、中弘グループ、日照海洋公園は、ロイターの複数回の取材依頼に返答しなかった。広州富力地産は、自社が計画を進めるマリンパークでは、鯨類は救助されたものか、定評ある動物園か水族館から提供を受けたものしか受け入れないと回答した。

中国各都市は、知名度を高めて注目を集めるためにマリンパーク計画を立ち上げ、デベロッパーに格安で広い土地を提供したり、格安融資を提供することが多い。

水族館施設の建設は、地方自治体政府から土地を取得するための合意全体の中の「おまけ」的な位置づけであることが多い、とアジアでテーマパーク開発に携わるアペックス・パークス・アンド・エンターテインメント・サービスのノーブル・コーカー社長は指摘する。

デベロッパーは短期間で開発し、住宅や商業施設を売却することで利益を得る。マリンパークのような施設の建設費用は、不動産の売却益でまかなわれることが多いと、コーカー社長は語る。

「デベロッパーのインセンティブはすべて短期的なものばかりだ。20年単位に及ぶマリンパークや水族館のモラルや倫理的影響を巡る問題は、まずめったに検討されない」と同社長は言う。

<違法捕獲>

中国鯨類保護連盟によると2014年以降、クジラやイルカ、ネズミイルカなどを含め、鯨類872頭が中国で捕獲されている。

現在のところ、こうした鯨類の取引を制限する地方政府の規制や国際的スタンダードはない、と海南省にあるリゾート施設アトランティス三亜で水族館施設の管理を担当するルシオ・コンティ氏は言う。

コンティ氏によると、絶滅が危ぶまれる野生動物の違法取引が拡大していることを背景に、アトランティスでは、動物福祉の基準策定を政府に働きかけているという。

「この島の漁師は、頼まれれば何でも手に入れてくる。ジンベエザメでも何でも、絶滅危惧種も、そうでないものも捕まえてくる。何も規制がないからだ」

中国政府の文化観光部はロイターのコメント依頼に対して、野生動物の保護を担当する国家林業局に取材するよう促した。同局は、ロイターからの質問を国家海洋局に回したが、海洋局は自然資源部にそれを転送。自然資源部はその質問を農業農村部に回したものの、農業農村部から回答はなかった。

中国のマリンパークの多くは、ジンベエザメやシロイルカ、イルカやオニイトマキエイ(マンタ)を飼育している。だが、黒と白がくっきりと分かれた胴体で知られるシャチが公に展示された例は、現段階では確認されていない。

ワシントン条約(CITES)によると、2013─2016年にかけて、少なくとも13頭のシャチがロシアから中国に輸入された。2017年にはさらに2頭が輸入され、今年さらにその数が増える予定だと、ドルフィン・プロジェクト・ロシアのオクサナ・フェドロバ氏は指摘する。

CITESは、取引にかかわった企業名を明かしていない。

英保護団体のホエール・アンド・ドルフィン・コンサベーションによると、長隆海洋王国が9頭、上海海昌海洋公園が4頭、無錫長喬海洋王国が2頭のシャチをそれぞれ保有しているという。

野生のシャチやシロイルカを中国に提供している唯一の国であるロシアは7月、シャチ7頭の違法売買について捜査を始めたと発表した。

ロシア検察庁の声明によると、4社がこの売買に関わっていたが、それぞれの会社名や、シャチの売却先は明らかにされなかった。

ロシアは2018年、シャチ13頭の捕獲枠を承認。8月に監視活動を行った活動家によれば、すでにオホーツク海で数頭のシャチが捕獲されたという。

「問題は、中国で生まれている需要にある」とフェドロバ氏は指摘。団体オーシャン・フレンズが組織した活動家らと監視活動を行った同氏は、7人編成のこのチームは捕獲者から脅迫を受けたり、狙撃されたり、盗難の被害にあったりしたと話す。

ドローンが撃墜されたため、彼らはシャチ捕獲場面は録画できなかったが、オーシャン・フレンズの提供写真には、ロシア船の輸送タンクにシャチ2頭が捕らえられているところが写されている。船の所有会社は、シャチの輸送をしただけで捕獲はしていないと説明した。

<使い捨てか>

ワシントンを拠点とする動物保護団体アニマル・ウェルフェア・インスティテュートの海洋生物学者ナオミ・ローズ氏は、こうした捕獲は非人道的で、持続可能ではないと語る。

また、多大な利益への期待が、犯罪的な要素を引きつけていると同氏は言う。「1頭あたり数億円という巨額の金が絡むとき、そこには犯罪と危険がある」

一度捕獲された動物は、死亡率が極めて高くなる、と活動家は指摘する。このため、運営会社は継続的に海洋生物を再購入しなくてはならなくなる。

「捕獲された状態では苦しいだけだ。特にシャチほど、タンクに入れられるのに向いていない動物はない。野生が一番なのだ」と、香港イルカ保育学会のTaison Chang会長は言う。

マリンパークが急増する中で、不潔な飼育環境や、不十分な世話に対する懸念も高まっている。

例えば、今年6月には、大連にあるマリンパークの訓練担当者が、シロイルカに真っ赤な口紅を塗っている様子を写したビデオがネット上で確認された。地元メディアによると、施設側は後で謝罪し、動物保護方針の強化を約束したという。

中国最大手のマリンパークがシャチのショーを一旦始めれば、中国全土にあるより小規模で経験の浅い施設もその真似をするのではないかと、活動家は懸念している。

長隆海洋王国で妻や子とシロイルカのショーを見ていたペンさんは、シロイルカ生息数減少への危惧があるとは知らず、ショーを楽しんだと語った。「残酷ではない。ちゃんとエサをやっているし、叩いたりはしていない」

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

ロイター
Copyright (C) 2018 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:米大統領選討論会、踏み込んだ政策論争不在 市

ビジネス

英GDP、7月は前月比横ばい 製造・建設が低迷

ビジネス

英不動産サイトのライトムーブ、豪REAからの買収提

ビジネス

ウニクレディト、独政府からコメルツ銀株取得 保有率
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    非喫煙者も「喫煙所が足りない」と思っていた──喫煙所不足が招く「マナー違反」
  • 2
    クルスク州「重要な補給路」がHIMARASのターゲットに...ロシアの浮橋が「跡形もなく」破壊される瞬間
  • 3
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 4
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンシ…
  • 5
    運河に浮かぶのは「人間の手」? 通報を受けた警官…
  • 6
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 7
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    【クイズ】世界で最も競技人口が多いスポーツは?
  • 10
    トランプの勝利確率は6割超、世論調査では見えない「…
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 7
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 10
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中