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アングル:ベルギーコネクション、バー店主からパリ自爆犯へ

2015年11月17日(火)16時53分

 11月17日、ブラヒム・アブデスラム容疑者がなぜバーの経営者からパリ多発攻撃の自爆犯になったのかは謎のままだ。写真は同容疑者が経営していたベルギーのブリュッセル首都圏モレンベークにあるバー。16日撮影(2015年 ロイター/Eric Vidal)

[ブリュッセル 17日 ロイター] - ベルギーのブリュッセル首都圏モレンベーク区長は2週間前、あるバーの閉店を命じた。このバーが麻薬取引の場となっていたことが、警察の捜査で明らかになったからだ。

このバーの店主だったブラヒム・アブデスラム容疑者(31)は今月13日、過激派組織「イスラム国」による報復攻撃として、フランスのパリにあるカフェで自爆した。

ブラヒム容疑者がなぜバーの経営者から自爆犯になったのかは謎のままだ。バーのマネジャーを務めていた弟のサラ容疑者は指名手配されているが、いまだ行方が分かっていない。

アブデスラム兄弟がこの店を売ったのは、わずか6週間前だった。

宗教的にアルコールやタバコが禁止されているイスラム教徒とバーの経営は結びつかないかもしれない。だが、129人が犠牲となったパリ同時多発攻撃のような事件が起きるたびに捜査で明らかになるのは、欧州の世俗的な暮らしに同化していたはずのアラブ系移民が、家族や友人には見えないところで、宗教的な自殺願望を募らせているという現実だ。

「付き合いのあった人だけにショックな話だ。彼らは面白いことが好きな普通の人たちだった。過激なところなど何もなかった。洗脳されたのだと思う」と、兄弟を知るナビルさん(25)は話した。

<「シルベスター・スタローン似」の声>

「タバコを吸っていたし、モスクにも行っていなかった」と、ヒシャムと名乗る男性(25)も兄弟についてナビルさんと同じような見方を示した。ただ、声が「シルベスター・スタローンに似ていた」という兄のブラヒム容疑者については、時々「ちょっと様子がおかしかった」と話した。

兄弟容疑者に対するこのような印象は、家族の間でも一致する。区庁舎に勤務する彼らの弟、モハメドさんは2日間拘束された後、釈放された。サラ容疑者の元同僚たちも、同じような印象を抱いている。ただ、サラ容疑者が2011年に常習的な遅刻が原因で店を解雇されたと公共ラジオ局に語っている。

ベルギーのメディアはまた、サラ容疑者が5年前、パリ多発攻撃の実行犯の1人で、同じくモレンベーク出身のアブデルハミド・アバウド容疑者(28)と共に強盗罪で服役していたと報じた。仏捜査当局は、アバウド容疑者がシリアからパリへの攻撃を指示した可能性があるとみている。

ベルギー警察はアブデスラム兄弟に前科があるか、監視対象になっていたことがあるかについて確認しなかった。

<過激な暴力の温床>

モーレンベーク区長は、同地区が「過激な暴力の温床」だとし、若者の高い失業率と過密状態が問題だと指摘。ベルギーの閣僚らも「一掃する」と約束している。

アブデスラム兄弟は失業者ではなかったとみられている。ベルギー紙が最初に報じ、ロイターが調べた公的文書によると、ブラヒム容疑者はブリュッセル生まれのフランス人で、バーを経営するため2013年3月に会社を設立した。

兄弟の家族は、閉店の警告を受けた後の今年9月30日、バーをベルギー南部に住所がある人物に売却。ロイターは同人物と連絡を取ることができなかった。

公的文書に記載されている兄弟の実家は、モレンベーク区庁舎に面した場所にある。警察に拘束されていた弟のモハメドさんは記者団に対し、家族が衝撃を受けているとし、「私たち家族はこれまで、法的に問題を起こしたことなどなかった。両親はショック状態にあり、状況を飲み込めていない」と語った。

また、ブラヒム容疑者が13日にパリへ行く気配は全く感じられず、サラ容疑者の現在の居場所も家族には見当がつかないという。

仏警察によると、ブラヒム容疑者はバタクラン劇場に近いカフェ「コントワール・ヴォルテール」で自爆し、爆発により複数が重傷を負った。

一方、サラ容疑者は車をレンタルし、後にこの車は89人が死亡したバタクラン劇場付近で発見された。同容疑者は他の2人と共に車に同乗中、ベルギー国境付近の仏カンブレーで検問を受けたが、逮捕されなかったという。

<友人を迎えに>

弁護士らの話では、サラ容疑者と一緒に車に乗っていた男2人は、ベルギー当局に拘束されている3人に含まれている。同乗者1人の弁護士によれば、この同乗者はパリで車が故障した友人から電話があり、迎えに行ったという。弁護士は、攻撃と関わりがあることを同乗者は何も知らなかったとしている。

アブデスラム兄弟の知人であるアミールさん(23)はまた、13日夜に友人から電話をもらい、サラ容疑者を迎えに行くためパリまで約280キロ運転するようたのまれたと語った。だが、アミールさんは断った。

サラ容疑者が燃料代を払うと言っていると聞かされたが、リースしている自分の車にそんな距離を走らせることはしたくないと思ったという。サラ容疑者を迎えにいった2人が拘束されたことに「全く信じられない。自分だったかもしれないなんて」と述べた。

武装警官がサラ容疑者を捜してモレンベークの自宅を包囲する様子がテレビで何時間もライブ中継されるなか、弟のモハメドさんはサラ容疑者が無実だと強調。そのうえで「このように緊迫した状況において、抵抗せずに逮捕されるかは分からない」と語った。

では、ブラヒム容疑者をバーの店主から自爆犯へと駆り立てたものは何だったのか。「そんなものは何一つない」とモハメドさんは語る。「2人は全く普通だった」

(原文:Robert-Jan Bartunek, Philip Blenkinsop and Alissa deCarbonnel 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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