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中小企業の賃上げ、多くの地域で「広がり見られる」=日銀支店長会議

2024年07月08日(月)18時34分

日銀が8日に開いた支店長会議では、地域の中小企業の賃上げについて、大企業を中心とする高水準の賃上げの波及や人材の確保のため「昨年を上回る、あるいは高水準だった昨年並みの賃上げの動きに広がりが見られている」との報告が出されていた。写真は2023年9月撮影(2024年 ロイター/Issei Kato)

Takahiko Wada Takaya Yamaguchi

[東京 8日 ロイター] - 日銀が8日に開いた支店長会議では、地域の中小企業の賃上げについて、大企業を中心とする高水準の賃上げの波及や人材の確保のため「昨年を上回る、あるいは高水準だった昨年並みの賃上げの動きに広がりが見られている」との報告が出された。

中小企業の賃上げの広がりが「期待できる情勢」とされていた前回4月の支店長会議から、判断が前進した。

一方、同日公表した「地域経済報告」(さくらリポート)では個人消費の判断が全9地域中3地域で引き下げ。支店長会議後の記者会見では、物価高の持続に加え新型コロナウイルスの5類移行に伴う消費マインド回復の一巡で、消費者の節約志向が「急に広がっている」との発言も聞かれた。

<円安、「現時点で非常に大きなショックではない」>

神山一成・大阪支店長(理事)は会見で、大企業のみならず中小企業も含めて、賃上げが「かなり広範囲に実現している」と述べた。

企業の価格設定を巡っては、サービス業など人件費比率の高い業種や人手不足感が強い業種を中心に「(人件費の)転嫁を実施・検討する動きに広がりが見られている」との報告が多く出された。

さくらリポートでは、最近の為替円安で「すでに収益が下振れており、次の値上げを前倒しで行うかどうかを検討している」(本店管下の食料品企業)との声が紹介された。

神山大阪支店長は、2022年にかけて見られた輸入物価の大幅な上昇はドル建て価格の大幅上昇と大幅な円安進展が影響したが、足元の円安進行の幅はその当時に比べれば大きくなく「現時点で非常に大きなショックが発生しているということではない」と述べた。ただ、このまま円安がじりじりと続き、再び輸入物価の上昇圧力が高まることには企業の間でも懸念する声が聞かれているという。

神山氏は、円安で輸出や生産が数量面で大きく拡大しているのではなく「人手不足という制約がある中、生産の増加よりも現地通貨建て価格の引き上げに注力しているとの声が聞かれている」と話し、数量が伸び悩む下でも製造業の収益ははっきりと改善しているとした。

<北海道、消費者の節約志向「急に広がっている」>

さくらリポートでは、全9地域中、北陸と近畿の2地域の判断を引き上げる一方、北海道と四国の2地域の判断を引き下げた。能登半島地震に見舞われた北陸を除く8地域が、景気は一部に弱めの動きが見られるものの、「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」と総括した。

需要項目別で、個人消費は北陸・近畿の2地域が判断を引き上げる一方、北海道・中国・四国の3地域は引き下げた。支店長会議では、個人消費は全体として底堅く推移しており、「旺盛なインバウンド需要がこれを押し上げている」との報告が出された。

岡本宜樹・札幌支店長は、消費者の節約志向が「急に広がっている」と警戒感を示した。その理由は必ずしも明確ではないが、高齢化や人口減少の影響が免れない中にあって物価高による実質所得低下の影響が累積したことや、コロナの5類移行に伴う「明るめの消費マインド」が風化している可能性もあるのではないかと分析した。

その上で「今後、半導体や新幹線などの大規模な建設工事が新たな成長エンジンとして加わり、家計部門でも収入の増加が支出の拡大につながる好循環が実現していく道筋にはある」と説明した。

<自動車生産、先行きの不確実性への懸念も>

生産は近畿のみが判断を引き上げ、残り8地域は判断を据え置いた。自動車の生産について、一部メーカーの生産停止の影響が和らいでいるものの、下押しの動きが続く中、先行きの不確実性を指摘する企業の声も報告された。

自動車関連産業が集積する東海地方は、生産の判断を据え置いたが、文言を一部修正。「下押し圧力を受けているものの、増加基調にある」とし、下押し圧力が「一時的」としていた4月時点から表現を変更した。

堂野敦司・名古屋支店長は、自動車メーカーの認証不正問題の影響が長引いているものの「下押し圧力が一段と強まったとみているわけではない」と話し、需要は底堅く、増加基調は維持できるとの見方を示した。

ロイター
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