ニュース速報

ビジネス

アングル:米経済の物差し、ステーキハウスにデルタ株と牛肉高騰の影

2021年08月23日(月)07時23分

 米国の高級ステーキハウスは、新型コロナウイルスの感染第1波による営業停止の影響から回復しつつあった。写真は12日、ニューヨークのブルックリンにあるピーター・ルーガー・ステーキハウスで撮影(2021年 ロイター/Andrew Kelly)

[ニューヨーク/ロサンゼルス 17日 ロイター] - 米国の高級ステーキハウスは、新型コロナウイルスの感染第1波による営業停止の影響から回復しつつあった。それがデルタ株の流行と牛肉価格の高騰に見舞われ、客足の戻りが鈍りかねない状況に陥っている。

革張りのボックス席、真っ白なテーブルクロス、1人前60ドルのリブロースステーキで知られる、市場規模50億ドルの高級ステーキレストラン業界は、米経済の本格回復の度合いを測るバロメーターとされる。

コロナ禍では多くの店舗が新たに屋外の食事スペースを設けたり、宅配サービスに乗り出したりするなどして新規顧客の獲得に取り組んだが、市場の復活には、経費が使える企業幹部が豪華な接待などを再開し、富裕な観光客がブロードウェイの劇場などに押し寄せる必要がある。

しかしデルタ株の感染者数や死者数が増え、多人数でイベントに参加したり、旅行へ行くのは再びリスクが高まっている。いくつかの企業が従業員の出社再開の目標スケジュールを延期し、ニューヨーク自動車ショーなど大規模なイベントも中止された。

高級ステーキハウスは特にコロナ禍の打撃を受けやすい。屋内で長時間かけてフルコースのディナーを堪能するスタイルが、不安を感じる顧客から敬遠される恐れがあるためだ。しかも牛肉の価格は高騰している。米労働統計局によると、7月の牛肉の卸売価格は前年同月比で平均40%も上昇し、ステーキハウスの採算が脅かされた。

今回の感染再拡大や新たな行動制限で再び客離れが起きたとしても、屋外に食事スペースを設けたり、宅配サービスを導入したりするなど、今年の感染拡大期に備えを強化しているとの声も、チェーン店の間からは上がる。

チェーン店の中にはバーを拡張しているところもある。収益性が高い酒類の販売は、牛肉価格の上昇による利ザヤ縮小圧力を相殺するのに役立つ。ルース・クリス・ステーキハウスの親会社、ルース・ホスピタリティ・グループは6日の決算発表で、コスト上昇を抑えるために最近、調達する牛肉の約10%分は価格を固定化したと明らかにした。

レストラン予約サービス、オープン・テーブルのデータによると、ワクチン接種率が上がり、デルタ株が大きな関心事になる前の1月時点と比較すると、今年半ばにステーキハウスの利用者数は2倍以上に増えた。

しかしコンサルタントのマルコム・ナップ氏によると、高級ステーキハウスの売上高は7月初旬で頭打ちとなり、8月第1週にはわずかに減少したという。

ナップ氏は「デルタ株の激震が走る前に予想していたような盛り上がりは起こらないだろう」と述べた。

<楽観的な見方も>

今月12日、ニューヨークのブルックリンにあるピーター・ルーガー・ステーキハウスでは、この道26年のヘッドウェイター、トム・ホビーさん(66)がボードに書かれたランチの予約を確認し、白い長エプロンをつけたウェイターがパンの入ったバスケット、櫛形にカットしたレモンを添えたヒラメ、ジュージューと音を立てるステーキの皿を店外のテーブル席へ運んでいた。

ボビーさんによると、当地を代表するステーキハウスのこの店は、コロナ対応のために屋外席や宅配サービスを新たに導入した。5月半ばに市当局の許可を得てバーが再開にこぎつけると「全体の雰囲気が変わった。料理だけじゃない。イベントのような感じになった」と言う。

コロナ禍前、ブルーミン・ブランズ傘下のステーキレストラン、フレミングスではテイクアウトや宅配がほぼゼロだった。しかし、多くのレストランが営業停止となった1年前、テイクアウトの売上高比率が47%に達していた。今は客足が戻っているため、この比率は8%程度だと、デービッド・ディーノ最高経営責任者(CEO)は言う。

ルース・クリスは宅配やテイクアウトに対応していない店舗を閉鎖した。シェリル・ヘンリーCEOは決算発表で、「テイクアウトと宅配のサービスにより、年齢層の低い、富裕な顧客を新たに獲得できた」と説明。最近は9月に前倒しで本格化するホリデーシーズンの予約が、デルタ株の影響を受けるかどうか見通すのは「時期尚早だ」と語った。

一方、デル・フリスコス・ダブル・イーグルなどの高級ステーキハウスブランドを展開するランドリーズのキース・バイトラー最高執行責任者(COO)は、デルタ株の脅威が迫る中で、慎重ながらも楽観的だ。「これ以上状況が悪化しなければ、12月にはほぼ平常に戻る」と見込んでいる。

(Hilary Russ記者、Lisa Baertlein記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

国内債券、超長期中心に3000億円程度積み増し=大

ビジネス

JPモルガンとBofAは中国CATLのIPO作業中

ワールド

ロシア、タリバンのテロ組織指定を解除 関係正常化に

ワールド

トランプ米政権、中国製船舶に課す入港料を一部免除
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 7
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中