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アングル:賞賛浴びたNZのコロナ対応、住宅高騰で格差拡大
ニュージーランドの首都ウェリントンは、多くの人が通常の生活をおおむね取り戻りしている。しかし一方で、キリスト教公益財団ウェリントン・シティ・ミッションのスタッフたちがホームレスの急増と格差拡大と懸命に闘っている。写真はウェリントンで、路上に置かれたホームレスの人の持ち物。15日撮影(2021年 ロイター/Praveen Menon)
[ウェリントン 16日 ロイター] - ニュージーランドの首都ウェリントンは、多くの人が通常の生活をおおむね取り戻りしている。風が強く吹き抜ける大通りは、マスクを着けない買い物客や勤め人でごった返している。バーはすし詰め、経済は順調だ。アーダーン首相率いる政権は、特徴的な外観から「蜂の巣」と呼ばれる国会議事堂の閣僚執務棟で新型コロナウイルス感染抑制を指揮し、その手腕は世界中から惜しみない賛辞を集めた。
しかし街の反対側では、英国教会系のキリスト教公益財団ウェリントン・シティ・ミッションのスタッフたちがホームレスの急増と格差拡大と懸命に闘っている。ニュージーランドはかねてから、世界中で庶民が最も住宅を入手しにくい国の1つだった。しかし、コロナ禍と、そして政府のコロナ対策がその状況に拍車を掛けた。
シティ・ミッションのマレー・エドリッジ理事長は「これは危機だ。貧富の差は常に拡大していたが、新型コロナが文字通り『ラクダの背を折る最後の一本のわら』になった」と語る。
人口21万1000人のウェリントンで、緊急用のシェルター入居を求める人の数は過去1年で3倍に増えた。家賃が過去最高を記録する一方、コロナ禍は、より低賃金の仕事に特にひどい打撃を及ぼしたからだ。
ウェリントン以外の各地でも、モーテルなど一時的な宿泊所が国によってシェルターに転用され、救護施設を求める家族がひしめき合う状況が起きている。約4000人の児童が現在、こうした場所で暮らす。
エドリッジ氏は「最近、2児を抱えて1年3カ月もそうした所にいる人に会った」と惨状を訴える。
社会開発省で住宅問題を担当するカレン・ホッキング氏は、特に子どもにとっては、モーテルは理想的な住居ではないと認め、「ホームレス状態に直面している家族は弱い立場に置かれている。そうした家族にはいったん応急の対処をして、その後に彼らに可能な、より適切な選択肢を探す」と取り組みを説明した。
4カ月前に農場の仕事を失い、再出発を目指してウェリントンに出てきたショーンさん(27)は、今も職に就けず、路上で暮らす。家賃が高くて払えず、緊急用の住居に入るのも長い順番待ちだからだという。「この街の問題はとにかく住居だ。路上暮らしだと雇ってくれるところはない。一方で住む所は見つからない」と訴える。
<K字回復>
ニュージーランド経済も、エコノミストが言うところの「K字回復」をたどっている。富裕層が恩恵を受ける半面、所得の底辺層は先行きが悪化する状態だ。
K字回復は世界的な現象となっている。裕福な人々は低コストで資本にアクセスできるようになり、コロナ禍に対応した財政刺激策の諸制度も利用して、結果的に株から美術品、不動産まで、ありとあらゆる資産を買い漁っている。
ニュージーランドの場合、コロナ禍で余儀なくされた政策で住宅ローン金利が下がり、富裕層は持ち家を増やしたり投資用賃貸物件を買い増したりすることがたやすくなった。これが住宅価格の高騰を一段とあおることになった。
同国の住宅価格はコロナ禍までの10年間で90%上昇していたが、この1年でさらに前年比24%も高騰。初めての住宅購入者や低所得層は住宅市場から締め出された。
最大の住宅購入層になったのは潤沢な資金を手にした投資家だ。昨年第4・四半期に販売された住宅の約4割は、すでに複数所有する人が買い手だった。
ANZの首席エコノミスト、シャロン・ゾルナー氏は「ニュージーランドで起きている貧富格差の急拡大は、住宅ブームと結びついたものだ。不動産を所有できる幸運な人々、さらには2件以上の不動産を所有できる驚くほど幸運な人々の資産増大は極端に進んだ」と言う。
賃貸住宅の家賃も全国的に上昇してきた。新築住宅への投資が長年、不足していたところに、移民流入が急増した影響だ。
2019年の経済協力開発機構(OECD)報告書によると、足元で価格が急上昇する前でさえ、所得分布の下から5分の1に属する世帯では、住宅コストが所得の45%に相当していた。ニュージーランドは今、OECD加盟国の中で最も住宅が入手しにくいワースト・ワンとなっている。
<政治リスク>
2期目に入った中道左派のアーダーン政権にとって、住宅危機が広げる格差問題は間違いなく最大の政治リスクとなっている。
アーダーン氏(40)は、全国の新型コロナ感染者数をわずか約2500人に抑えたことで支持が急上昇。首相が率いる与党・労働党は昨年の総選挙で圧勝した。
しかし住宅不足と住宅価格の高騰により「平等な国」というニュージーランドの自己イメージが損なわれるにつれて、首相の支持率は下落してきている。
ビクトリア大(ウェリントン)の住宅政策アナリスト、ブライス・エドワーズ氏は「首相の支持は今なおライバルを大きく引き離しているが、信望に基づく指導力が弱まっており、味方からの信認も大きく失うリスクがある」と説明。「住宅は左派にとって中心的なテーマの一つであり、よりによって労働党がこの問題で失敗している事態は想定外だ」と語った。
アーダーン氏が就任した2017年の時点で既に、住宅と格差は重要課題になっていた。同氏はいずれへの対処も約束した。
しかし住宅開発を目指す政権の旗艦プロジェクト「キウイ・ビルド」はうまく行っていない。国民の精神的、社会的幸福を目指すとして、鳴り物入りで導入された予算の「ウェルビーイング」枠に対しても、国民は効果を実感できないでいる。
同国の先住民族マオリへの住宅供給を目指す組織の責任者によると、最も住宅問題の打撃を受けているのがマオリたちだ。彼らはおおむねアーダーン政権の支持層だった。しかし、彼らは家の所有機会をより得られず、賃貸入居を認められないことも非マオリより多い。「根深い格差と差別がある」と問題を訴える。
<政策のジレンマ>
政府とニュージーランド準備銀行(中央銀行)のさまざまな景気対策により、同国経済はコロナ禍から迅速に回復を遂げた。
準備銀は政策金利を過去最低に引き下げ、量的緩和策で大量の資金も供給し、住宅ローンの返済猶予を可能にする制度も導入した。政府の財政支出は全体的には雇用を救ったが、住宅価格高騰という面では火に油を注ぐ形となった。政権がインフラと社会福祉への支出を有意に増やさず、住宅価格のさらなる押し上げにつながるような経済刺激策を進めたと批判する声もある。
対応を迫られたアーダーン首相は今年3月、不動産投資家への課税と投機抑制を目指した一連の政策を発表した。今のところ住宅市場の反応は限定的で、政府は追加策を約束している。
首相は3月の記者会見で「追加対策の必要性は明らかだ。わが国経済が今、最も避けなければならないのは危険な住宅バブルだ。しかし現在、多くの指標がそのリスクを指し示している」と危機感をあらわにした。
(Praveen Menon記者)