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焦点:2年ぶりマイナス成長、根強いデフレ心理 政策が「力不足」

2018年05月16日(水)15時53分

 5月16日、内閣府が16日に発表した今年1─3月の国内総生産(GDP)は、内需の失速で9四半期ぶりにマイナス成長となった。写真は都内で2016年2月撮影(2018年 ロイター/Thomas Peter)

[東京 16日 ロイター] - 内閣府が16日に発表した今年1─3月の国内総生産(GDP)は、内需の失速で9四半期ぶりにマイナス成長となった。潜在成長率を上回る2年にわたる高成長にもかかわらず、安倍晋三政権が目指す経済の好循環や、デフレ脱却宣言はいずれも達成できていない。想像以上に根強いデフレ心理が高い壁となり、これまでの政策パッケージが「力不足」であったことを浮き彫りにした。

<政府内に「成長の中身に課題あった」の声>

「これまで成長の中身に課題があったかもしれない」──。 内閣府幹部の1人は、過去2年間の高成長の間に好循環に至らなかった背景について、こう指摘した。

アベノミクス当初の大規模金融緩和と積極的な財政出動を起点に、円安を追い風にしながら世界経済の好調さを企業部門が取り入れ、過去最高益を記録する企業が続出した。しかし、そここから家計部門への本格波及につながることなく、今回の9期ぶりマイナス成長に直面した。

この現象について、野村証券・チーフエコノミストの美和卓氏は、賃金引き上げにボトルネックが発生したためと指摘。生産性の上昇が鈍く、企業は「賃上げに二の足を踏んだ」とみている。

日本生産性本部によると、労働者1人当たりの生産性は最新データの2016年でわずか0.3%の上昇にとどまっている。2010年以降では、消費税引き上げで経済が落ち込んだ14年度を除き、最低の伸びだ。

企業は人手不足の下で、賃上げやロボット化を進めているものの、機械化は必ずしも付加価値の引き上げや賃金の上昇につながっていない、と美和氏は指摘。「経済好循環につながる本丸は、所得水準自体の引き上げにつながる高等教育の充実と人材育成だ」とみている。

安倍政権が、新たな展開として「人づくり革命」を掲げ、学び直しや教育無償化に力を入れ始めたことは、プラスの兆候だと同氏は述べている。

<予想超えたデフレ心理の強さ>

SMBC日興証券・チーフマーケットエコノミストの丸山義正氏も、好循環・デフレ脱却に至らなかった最大の要因は、賃金にあるとみている。

しかし、その背景には生産性の問題よりも「安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁が想像した以上のデフレ心理の強さがある」と分析する。

企業が高収益となれば、自然の流れのように家計に恩恵が波及すると予想されたが、全く波及しなかった。

「官制春闘」と批判されながらも、安倍首相が企業に3%の賃上げを求め、賃上げの幅拡大を目差した減税対応を展開しても、今年の春闘の結果を見れば「さほどの効果はなかった」と丸山氏は指摘する。

今回の1─3月期のマイナス成長は、天候要因や直近の高成長の反動といった面が現れたに過ぎず、再びプラス成長に戻るとの見方が民間エコノミストの間では多い。

内閣府幹部は、物価調整後の実質雇用者所得が前期比0.7%増と高めの伸びを示していることを根拠に「消費の基調が崩れたわけではない」と見ている。

<「劇薬」が必要との指摘も>

だが、そうした見方とは裏腹に、デフレ脱却や経済好循環の達成の日が近づいているとの見方は、むしろ政府内では後退しているようだ。

政府が重視する「生鮮食品とエネルギーを除くCPI」(コアコアCPI)は、今年3月時点で前年比0.5%上昇にとどまり、1%にも届いていない。

また、日銀展望リポートでは、2%物価目標の達成時期に関する文言が削除され、黒田東彦総裁自身も、国会などでデフレ心理の根強さが想像以上に強かったとの見解を率直に示している。

アベノミクスが本格的に始まった2013年以降、潜在成長率を上回る成長が続いてきたものの、企業部門の活性化にとどまり、個人消費に波及しない構図が存在する。既存の政策パッケージでは、この構図を変えるには「力不足」ということもわかってきた。

だが、決め手となる賃上げとデフレ心理解消に有効な特効薬は、まだ見つかっていない。SMBC日興証券の丸山氏は「どこかで高めの賃上げを義務付けるなど、劇薬的な政策で突破口を切り開くことが必要かもしれない」と指摘する。

(中川泉 編集:田巻一彦  )

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