ニュース速報

ビジネス

訂正-〔アングル〕震災対応に揺れる自動車産業 コスト競争力低下の懸念も

2016年03月18日(金)19時07分

 3月18日、自動車メーカーや部品各社で災害に強い供給網の構築が広がっている。写真は地震で崩壊したトヨタ車ディーラー店。南三陸で2011年3月撮影(2016年 ロイター/Carlos Barria)

[東京 18日 ロイター] - 自動車メーカーや部品各社で災害に強い供給網の構築が広がっている。在庫積み増し、標準品の採用、購入先や生産拠点の分散化など、5年前の東日本大震災以降に各社が講じてきた対策は多岐に及ぶ。しかし、災害対策への急傾斜はコストの増加や製品力の低下を招きかねない。激化する国際競争の中で、災害への備えと利益や効率の追求をどう調和させるか、各社はなお多くの課題に直面している。

<在庫増強や設計変更>

「どこにどの会社のチップ(半導体)を使っているか、ふだんは考えていなかった。(供給が)止まったときは大騒ぎだった」。米自動車部品メーカーのZF TRW(当時はTRWオートモティブ)日本法人の中根義浩社長は5年前をこう振り返る。

TRWは半導体大手ルネサスエレクトロニクス<6723.T>から車載用半導体の供給を受けていた。しかし、ルネサスは主力の那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災、供給不能に陥りTRWは電動パワーステアリングやエアバッグ用センサーの生産を停止せざるを得なかった。

震災後TRWは、供給網が寸断しても自社生産に支障のないよう、1社からしか買えない部品の在庫量を従来の3日分から6日分に倍増、複数社から購入できる部品については設計を見直した。いざという時にどの社の部品でも使えるようにする狙いからだ。一部のプラスチック製品については北米と中国の両工場に型を置き、緊急時にはどちらの工場でも作れるような態勢を取った。

独化学品メーカー、メルク(訂正)でも問題が起きた。同社の小名浜工場(福島県いわき市)では車の塗料に使うパールのような光沢が特徴の高輝度の顔料を作っている。震災時、同工場は設備損傷こそ免れたものの、生産に欠かせない水の供給が止まり操業を約2カ月停止した。

当時は同工場が高輝度顔料の唯一の生産拠点だったため、米フォード・モーターズなどが同顔料を使っている車を販売できない事態になった。同社は震災後、顔料の在庫を増強し、現在は常時「数カ月分」の在庫を保有しているという。

リスク分散のため、ドイツの工場でも同顔料の生産を開始。震災前は世界の半分以上を占めていた日本での在庫を最近は40%に抑え、残りは米国や欧州、中国を含むその他の地域に置いている。

<「見える化」を徹底>

自動車一台に使われる部品はおよそ3万点あると言われ、完成車メーカーに至る供給網は部品を直接納める1次仕入れ先から2次、3次と何層にも広がる。複数社から同じ部品を仕入れてリスク分散したつもりでも、元をたどれば原料や素材が同じ会社だったケースもあり、メルクなどの事例は原材料までさかのぼって情報を把握する必要性も各社に痛感させた。

当時の日産自動車<7201.T>は2次仕入れ先以下の部品と1次仕入れ先の部品・車種との紐づけができていなかったため、震災後、生産場所など2次以下の部品情報から1次部品、車種へと逆引きできるデータベースを作成した。国内では5000品目が対象で、部品によっては10次まで把握できているという。

トヨタ自動車<7203.T>も1次仕入れ先を通じて2013年中に調査を終え、供給網の「見える化」に取り組んだ。何次までさかのぼるかは部品によるが、最低3次までの情報を網羅し、約6800品目の生産場所など延べ65万拠点の情報を有するデータベースを構築した。

だが、こうしたデータベースも完璧とは限らない。安くて高品質の製品を常に要求される部品会社にとって、どこから何を調達しているかなどの取引先情報は本来、公開できないからだ。日産自も、まだ材料レベルでは詳細を把握できていないものもあるとしており、供給網の「見える化」の作業はなお続いている。

<国際競争力への懸念>

トヨタは今年2月、震災後初めて国内すべての車両組立工場の稼働を6日間停止した。グループ企業で爆発事故が起き、エンジンなどに使う特殊な鋼材の供給が止まったためだ。代替生産を依頼したが十分な量が確保できず、想定していたバックアップ態勢がまだ十分ではなかったことが明らかになった。

同じ製品のために金型や生産設備を複数持つことなどは競争力を維持、強化するうえで必ずしも得策ではないという専門家の意見もある。

「グローバルでの競争は『毎日』のことだが、災害は『いつか』やってくるもの」と東京大学大学院の藤本隆宏教授は、供給網にはまず国際競争力があることが大前提だと主張する。

災害時に事業を継続することは重要だが、そのために「在庫をより多く持とうとか、生産ラインをもう1本作ろうという(震災対応の)強さだけを求めていては国際競争に耐えられなくなる。競争力を犠牲にしてまでの対応を取る企業は次の災害が起きる前につぶれてしまうだろう」と指摘する。

*メルクの企業コードを訂正します。

(白木真紀、田実直美 編集:北松克朗)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

シャープ、堺市の土地などソフトバンクに引き渡し 売

ビジネス

焦点:中国株、トランプ関税で再び「偉大」に 避難先

ビジネス

午後3時のドルは148円半ばへじり高、株反発で円高

ワールド

米メディア、投票システム会社に和解金4000万ドル
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 4
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 5
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 8
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 9
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎…
  • 10
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中