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インタビュー:2%早期達成困難、日銀は持久戦に転換必要=早川英男氏

11月5日、元日銀理事の富士通総研・エグゼクティブ・フェローの早川英男氏は、ロイターとのインタビューの中で、2016年度に大幅な賃上げが実現する可能性は低く、2%の物価目標実現には時間がかかると指摘した。写真は都内で昨年5月撮影(2015年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 5日 ロイター] - 元日銀理事の富士通総研・エグゼクティブ・フェローの早川英男氏は5日、ロイターとのインタビューの中で、2016年度に大幅な賃上げが実現する可能性は低く、2%の物価目標実現には時間がかかると指摘した。一方、年間80兆円(残高ベース)の国債を買う日銀の「量的・質的緩和(QQE)」は数年以上は継続できないため、日銀は持久戦への戦略転換が急務だと強調した。
<緩和見送り理由、円安の限界と弾なし>
日銀が10月30日の金融政策決定会合で追加緩和を見送って理由について、早川氏は「表向きは9月鉱工業生産の好転と基調的な物価上昇の継続が理由」だが、「裏の理由は円安を進めても輸出・設備投資が伸びず、追加緩和手段も乏しいためだ」と述べた。
仮に追加緩和に踏み切った場合は「国債買い入れを10兆円増額などと発表すれば『政策はもうおしまい』とのメッセージとなり、かえって株が下落した可能性がある」と指摘した。
早川氏は従来、2%目標は達成可能だが、日銀の見通しよりやや時間がかかる、との立場だった。
だが、今回のインタビューでは「昨今の労組側の発信などをみると、来年度1%以上のベアを期待するのは難しい。2%の物価目標実現は相当遠のいた印象だ」と述べた。
一方で年間80兆円の国債を中心とした「現行の買い入れは、数年しか継続できない。日銀は政策の変数を現在のマネタリーベース(資金供給量)から金利など長期に継続できるものに転換する必要がある」と訴えた。
具体的には「短い金利はマイナスにする、(長期ゾーンと短期ゾーンで保有比率を変更する)ツイストオペなど様々な手段が考え得る」と付け加えた。
<昨年の追加緩和は「ミッドウェー海戦」>
QQEについて「短期決戦を狙った戦略で初陣は大成功、『真珠湾攻撃』だった。しかし、昨年の追加緩和によりほとんど戦力を失ったため『ミッドウェー海戦』(注1)。今年10月に追加緩和していたら、もうすでに戦力はほとんどなくなっているから『レイテ沖海戦』(注2)だった」と総括。10月の2回の決定会合で政策現状維持を決めた日銀の判断を評価した。
もっとも最近の日銀について「自ら墓穴を掘るケースが増えている」とも苦言を呈した。
物価の目安として、今夏から生鮮・エネルギーを除く日銀版コアコア指数を公表し、順調に上昇しているのを強調している点について「都合の良いもののみ組み入れている」と批判した。
今後の展開について、円安が一巡していくため、輸入品の割合の高い缶詰などの食品加工品の価格上昇が一服する一方で、賃上げの影響を受けたサービス価格がジワジワと上がっていくと予想。加工食品が含まれる日銀版コアコアの上昇率が鈍化する一方、サービス価格のウエートが高い通常のコアコア指数が「ゆっくりだが上昇を続ける」と分析した。
そのうえで、2016年早々に日銀は、日銀版コアコア指数の伸び悩みを説明する必要が出てくると予測した。
黒田東彦総裁が30日の記者会見で、英中銀の国債保有が発行額の7割と発言、その後4割と訂正した点についても、「結果的に(すでに3割保有している)日銀は政策の限界が近いと思われやすくなった」と指摘した。
注1:1942年6月、太平洋のミッドウエー島沖で日米海軍の主力機動部隊が激突。日本海軍は主力空母4隻を失う大敗北を喫し、真珠湾攻撃以来の優位を一気に失い、太平洋戦争の転機となった。
注2:1944年6月のマリアナ沖海戦で機動部隊が大打撃を受けた日本海軍は、同年10月のレイテ沖海戦で残余の艦船を繰り出したが、戦艦・武蔵など主力艦が沈没。日本海軍の戦力は大幅に低下した。
(竹本能文、木原麗花 編集:田巻一彦)