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焦点:米株暴落招いた相場操縦は「日常茶飯事」か
4月22日、2010年5月に株が一時的に急降下する「フラッシュクラッシュ(瞬間暴落)」を引き起こした相場操縦に関与した疑いで英トレーダーが逮捕されたが、市場関係者からは同様の行為はよくあることとの声が聞かれる。写真は2010年5月、ニューヨーク証券取引所に掲げられた米国旗(2015年 ロイター/Lucas Jackson)
[ニューヨーク 22日 ロイター] - 2010年5月に株価が一時的に急降下した「フラッシュクラッシュ(瞬間暴落)」を引き起こした相場操縦に関与した疑いで英国人トレーダーが逮捕された。相場操縦では最も注目を集めた事例かもしれないが、市場関係者からは同様の行為はよくあることとの声が聞かれる。
逮捕されたのは、ナビンダー・サラオ容疑者(36)。先物取引で自動プログラムを使い、大量に見せ掛けの売り注文を出すことで価格の下落を誘うなど、数年にわたり相場を操縦していた疑いがある。こうした取引で得た利益は約4000万ドル(約48億円)に達するという。フラッシュクラッシュが起きた10年5月6日には、ダウ工業株30種平均が一時、1000ドル以上下落。1兆ドル近くの市場資産が失われた。
同容疑者が行ったのは、大量の注文を発注した後直ちにキャンセルする「スプーフィング(見せ玉)」と呼ばれる行為。米ニューヨークの証券会社コンバージェックス・グループのエリック・ノール最高経営責任者(CEO)は、同行為について、正当な取引戦略と見分けがつけにくく、規制当局も見つけるのが困難だと指摘する。
ブローカーは通常、アルゴリズムを使った高速取引で大量に注文を出した後、価格が変動したときにその大量注文をキャンセルする。ノール氏によると、平均的なブローカーディーラーは1つの取引当たり5─30件の注文をキャンセルする一方、電子取引では同100件近くがキャンセルされることもあるという。
ブローカーディーラーは顧客にできるだけ最良の買い値を提供すべく、実際に遂行するよりも多くの注文をキャンセルする。また、もしこうした注文に顧客からの需要がなければ、キャンセルすることになる。
一方、電子取引では、マーケットメーカーが大量の売買を通してトレーダーの取引実行を助け、売買スプレッドで利ざやを稼ぐ。価格が変動すればマーケットメーカーは提示した価格をキャンセルしたり、売買スプレットを縮小して新たに注文を受けたりする。
こうした取引とスプーフィングの違いは、スプーフィングにはその価格で取引を完了する意思が最初からないことだ。
米IVトレーディンググループのマネジャー、エバン・マクダニエル氏は「疑わしい行為は日常茶飯事だ」とし、「24時間、大量の注文が出ているが、彼らに取引を完了する意図はなく、価格に影響を与えようとしているだけだ。これは原油価格において頻繁に起きていることだ」と語った。同氏はまた、規制当局による取り締まりも選択的だと指摘した。
規制当局の元幹部は、当局にとっての問題は、トレーダーに取引を完了する意図があるかを証明することが困難であることだと述べた。
相場操縦を見つけるために使用されるパターン認識ソフトウエアの精度は高まっているが、スプーフィングの手口も同様に複雑化している。先述のノール氏によると、買い注文と売り注文で異なるブローカーを使うことで手口を隠ぺいしようとしているという。
また、先の規制当局元幹部は、当局がスプーフィングを確認したときには通常、罰金を科すが、同行為によって大きな利益を上げられると考えるトレーダーにとって抑止力とはならないかもしれないとの見方を示した。
規制当局は過去数年、スプーフィングなど相場操縦の容疑で多くの企業を起訴してきたが、サラオ容疑者のケースはスプーフィングが刑事事件として扱われた2事例目にすぎない。
米商品先物取引委員会(CFTC)は昨年11月、世界最大の先物市場を提供するCMEグループに対し、スプーフィングを見破る戦略を引き続き策定するように求めている。
米司法省の訴状によると、サラオ容疑者は注文のキャンセルがさほど怪しまれないような値動きの激しい相場環境下でスプーフィングを行っていた。訴状で指摘された2010年4月から2011年8月までの11日間におけるEミニS&P500株価指数先物の取引高中央値は325万枚に上っており、同期間全体では同200万枚程度だった。
スプーフィングを見つけるテクノロジー開発やトレーディング戦略策定を行っているABLEアルファ・トレーディングのマネジングディレクター、アイリーン・アルドリッジ氏によれば、同容疑者は株式市場より操作しやすい商品先物市場でも取引を行っていた。
サラオ容疑者が相場操縦をしていたとされるCMEの板情報では価格と価格水準別に総注文数が示される。一方、株式市場では入力され取り消された個別の売買注文が表示される。
一部のトレーダーは、価格水準ベースの場合、同価格の他の注文と一緒になるため、ある特定の注文が市場にどのくらい長く出回っているのか分かりづらくなると考えている。その一方で、見せかけの注文を行うのはそれほど可能ではないとの見方もある。
超高速取引会社トレードワークスの創業者で元CEOであるマノジ・ナラン氏は「価格水準ベースの方が注文を隠しやすいとはいえ、それほど簡単というわけではない」と話した。
(John McCrank記者、翻訳:伊藤典子、編集:下郡美紀)
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