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トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
「非小沢内閣」発足で帰ってきた民主党
Yuriko Nakao-Reuters
菅直人内閣が発足した。先週予想した通り、多くの閣僚(11人)は再任だ。鳩山・小沢体制から新しい民主党内閣への移行ぶりを観察して政治アナリストのマイケル・キューセックは、菅首相の下、「もともとの民主党が帰ってきた」と結論付けた。05年のいわゆる郵政選挙で小泉純一郎に大敗し、小沢一郎の力を頼るようになる前の民主党のことだ。
私もキューセックと同じ意見だ。小沢前幹事長に菅が「しばらく静かにしているように」と言ったり、選対委員長に起用された安住純が複数区に複数候補を擁立する小沢戦略を見直す意向を示すなどの慌しい動きは、小沢と距離を置こうとする民主党の変化のほんの始まりに過ぎない。
何より、菅が強調する「草の根」政治や草の根をベースとした「奇兵隊内閣」は、長いこと自由民主党の権力基盤だったのと同じ利益団体に擦り寄る小沢の政治とは極めて対照的だ。
「もともとの」民主党が帰ってきたとき、政策決定過程はどう変わるのか。
■政調会長が入閣する意味
おそらく最大の変化は、小沢時代に進んだ幹事長室への権力集中を改めることだ。鳩山政権下で廃止された政策調査会(政調)を復活させたのが象徴的だ。
だが新しい政調は、自民党の旧来型の政調とは似ても似つかぬものになるはずだ。第1に菅は、官僚主導脱却のための「政官の接触制限」は堅持する意向のようだ。
第2に、政調会長に就任した玄葉光一郎は公務員制度改革相も兼務することになった。新しい政調は政府が目指す「政策決定の内閣一元化」を脅威にさらすようなものではないと玄葉も語っている。むしろ、内閣と党が互いに意思疎通を図るための交流の場になるのだという。
政調会長が閣僚を兼務するのは初めての試みだが、これによって玄葉が政調会長の立場を利用して政府に楯突くのは難しくなる。内閣の一員として、政府がいったん決めた政策はこれを守る義務を負うからだ。
さらに菅政権は、枝野幸男新幹事長をも政府の傍に引き付けておこうとするだろう。枝野は文字通り、首相官邸内にオフィスを構えることになるかもしれない。新しい幹事長は、小沢のように自立した戦略家ではなく、首相の政治顧問のような存在になるだろう。そして枝野自身の言葉を借りれば、有権者に対し政府の決定を弁護する務めを果たさなければならなくなる。
■「菅システム」のカギは小沢
鳩山政権は、与党内に異論を唱える人が少なくなった代わりに約1名が首相と同等かそれ以上の拒否権を発揮する政府だった。それが菅の下では、与党内の議論はもっと喧しくなるかもしれないが、首相が最大の権限をもち、有権者に対する唯一の顔でもあり、党幹部に対しても指導力を発揮できる政府に変わるだろう。政策決定過程に関わる人数は増えても、菅は、誰が政府の最高責任者かを周囲に徹底させることをためらわないだろう。
もちろん、この「非小沢システム」の存続は、小沢自身がこれを受け容れるかどうかにかかっている。役職から解放された小沢がその気になれば、支持者を集めて派閥を作ることもできる。菅政権の運営は困難になるだろう。小沢が自ら干渉を自粛してくれるのでなければ、新政権はいずれ小沢と妥協しなければならなくなる。
そうだとしても、菅は内閣が政治の実権をもつイギリス式議会制民主主義の実現を目指し続けるのではないか。党執行部は、小沢に近い議員グループにいくつかの譲歩を行ったかもしれない。だが目標はあくまで、官僚と一般議員の力を抑え首相と内閣の権限を強化することに他ならない。
[日本時間2010年06月09日04時05分更新]
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