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コラム
トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
安倍っぽかった鳩山演説
「ファミリービジネス」である政治の世界に入る前、鳩山由紀夫首相は学問の世界にいた。元学究ゆえ鳩山の演説はしばしば抽象的になる。壮大な根本的方針は語っても、政策の詳細に踏み込むのは避ける。珍しいことに、鳩山の1月29日に施政方針演説で「友愛」は1回しか出てこなかったが、代わりに「いのちを守る」というテーマに関する内容が半分を占めた。
昨年の衆院選のときから明らかだったが、鳩山の民主党は政治改革には熱心だが、経済改革の取り組みに具体性はない。デフレ克服が日本経済最大の課題のはずなのに、日銀とともに「協力かつ総合的な」政策を推進する、と語っただけ。おなじみの環境テクノロジー、抽象的な観光振興策、農業政策は農家の個別補償しかなく、地方分権をどう法案化するかも明らかでない。
内政上の課題に比べ、外交に関する鳩山の言葉は政権の方向性を理解する手がかりになる。本質が抽象的で、法律化や規制があまり必要でないという外交の特性にもよるが、施政方針演説は政権が世界とどう関わろうとしているのかを知るヒントになる。
鳩山政権の世界観とは、いったいどんなものなのだろうか。
まず鳩山は日米同盟を重んじるゆえ、21世紀の諸問題に取り組むためその再構築を真剣に目指す立場を示した。普天間の米軍基地移設問題について短く触れた鳩山は、5月までに具体的な移設先を決定するという約束を改めて示し、沖縄県民の意思を尊重した解決策を目指すと語った。ただ重点が置かれたのは気候変動、核不拡散、そしてテロについて。戦争の抑止や地域の公益については語らなかった。
鳩山の言う「重層的な関係」における安全保障にもっと触れてほしかったが、政権の意図するところは分かった。2国間の安全保障だけを見れば、力の強いアメリカが弱い日本に対して新たな役割と新たな能力を要求しているのだから、日米同盟はいかにしても対等にはならない。ほかの問題や、安全保障に関するより今日的課題を議論する両国の関係はもっと対等だ。
■アメリカが気にするアメリカ・パッシング
次に、鳩山政権はアジアにおける日本の立ち位置を変えようと決意している。何十年もの間、日米同盟が日本のアジア対策の前提だった。今後は日米同盟をアジア政策にどう合わせるか考え出す必要がでてくる。今に始まった議論ではないが、鳩山政権になってより顕著になった。
鳩山の施政方針演説やほかの演説からも分かるが、日本は中国との関係において「アメリカ・パッシング」しようとしているのではない。日本がアメリカの「ジャパン・パッシング」を憂慮した(している?)ように、アメリカも日本の中国接近を気にかけている。鳩山政権は中国と「戦略的互恵関係」(この言葉はもともと安倍晋三元首相が使ったものだ)を築きたいが、それは韓国、ロシア、インド、オーストラリア、さらにはASEAN(東南アジア諸国連合)各国とも同じだ。
鳩山は日本がアジアで2国間、3国間、多国籍間の関係を構築し、世界やアジア地域共通の問題に取り組むことを望んでいる。その道のりには多くの障害が立ちはだかるが(特に国民は国内問題解決の優先を望む)、彼の言葉には鳩山政権が世界でどう行動するかが示されている。
■永遠のライバル「コイズミアン」
おそらく演説から最も学べることは、民主党の政治基盤についてだろう。鳩山は、「いつ、いかなるときも、人間を孤立させてはならない」と語った。そのため政府は雇用を守り、非正規雇用者を守る規制を強め、女性や若者、高齢者ができる限り経済活動に参加し、彼らの能力を生かすようにしなければならない。疲弊した地方への支援も考えあわせれば、民主党はいつの日か労働者や孤立する人たち(利害が衝突する同士でもあるが)の政党になってしまうかもしれない。
民主党の本質的なライバルは、中高所得者層や豊かな都市部や都市近郊に住む人たち、大企業の支援を受けた「コイズミアン」だろう。小泉純一郎元首相の信奉者が事実上自民党から追い出されたことを考えれば、自民党がそんな政党に変わるのは現状では難しい。不安定な経済情勢の中で、両党とも社会の周辺に追いやられた人たちの代弁者になろうとしているが、経済が復活すれば違いが明らかになる可能性は大きい。
今回の施政方針演説を読むと、やはり演説で展望や見解を中心に語り(しかもカタカナの羅列)、具体的な政策に言及しなかった政治家一族出身の元首相、安倍晋三を思い出す。安倍と鳩山の世界観は明らかに違う。鳩山は少なくとも日本国民がいま直面している問題に関心がある。だが安倍と同じく、具体的な政策をつくり上げたり、政策案を現実化するために手を汚すことはしたくないらしい。
具体的な政策に興味がなかったり、その実現に意欲を見せないリーダーが政治の世界で成功できるのだろうか。
[日本時間2010年01月31日(日)04時08分更新]
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