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コラム
トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
「夢想家」首相、普天間の迷走
民主党主導の鳩山政権が誕生しておよそ100日。新政権は、対米政策、とりわけ沖縄の米海兵隊普天間飛行場の移設問題への対応で激しい批判を浴びている。
この問題で鳩山政権に誤算があったことは間違いなさそうだ。鳩山由紀夫首相は、バラク・オバマ米大統領と率直に話し合えば問題を解決できると楽観していたふしがある(コペンハーゲンの国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議に出席する際に、オバマと首脳会談を行いたいと望んだことに、その発想が見て取れる)。
ひとことで言えば、鳩山が望んでいるのは、小泉純一郎元首相とジョージ・W・ブッシュ前大統領の関係と対照的な関係をオバマと築くことらしい。
小泉とブッシュの関係は、日本の対米依存を強め、その結果として、遠く離れた国でのアメリカの戦争を日本が支持する状況をもたらした。鳩山はそれと一線を画し、オバマとの相互の信頼関係を通じて、安全保障以外の分野での協力を重んじる「対等な」日米関係を築きたいと思っている。
■普天間問題のダメージは限定的
そうした新しい日米関係を実現するために、鳩山はリスクを承知の上で一連の行動を取ったつもりだったようだ。
日米両国が長年の懸案だった普天間問題を早期に解決できれば、鳩山の望むような日米関係をつくり出す道が開けるという思惑だったのだろう。就任早々にこの問題を持ち出すことにより、これまでの日米関係のあり方からの決別を印象付け、選挙のマニフェスト(政策綱領)を守る姿勢と外交上の手腕をアピールしたいという狙いもあったに違いない。
しかし、実際に鳩山政権に降り掛かったのは最悪のシナリオだった。政府は外交政策での無能ぶりを露呈し、米政府高官たちの不信感をますます深めつつある。おまけに、米海兵隊の沖縄からの全面移転の可能性をちらつかせて、沖縄の人々の期待を過剰に高めてしまった可能性も高い。
一連の騒動が浮き彫りにしたことの1つは、私が以前から指摘してきたように、鳩山にはやはりリーダーの適性が欠けているということだ。鳩山は、日本をどういう方向に導きたいかという理念はある程度持っているようだが、それを実現するための方策はほとんど持ち合わせていないように見える。
私が思うに、鳩山は夢想家の側面が強過ぎて、戦略家としての資質が不足している。政権内に優れた戦略家がいればそれは大した問題でないが、誰がその役割を担うのかがまだ見えてこない。というより、その役割が務まる人材など果たしているのか。
もっとも、普天間問題が先々まで大きなダメージを残すことはないと、私は考えている。おおむねアメリカ政府が望むような形で決着がつけば、なおさらダメージは小さくて済む。
鳩山政権は普天間の失敗で懲りているだろうし、10年夏の参院選と新年度予算のことで頭がいっぱいになるはず。今後は、鳩山政権が外交問題について発言する機会は減るだろう。その結果、(普天間問題にとどまらない)未来の日米同盟と在日米軍のあり方全般についての本格的な議論を行いやすい環境が生まれそうだ(鳩山や民主党の小沢一郎幹事長が本来目指すところもそこにあったはずだ)。
■社民党が切れない「離脱」カード
一方、連立与党の中では、民主党が社民党に対して強い立場に立つことになるかもしれない。確かに、社民党には連立離脱という強力な切り札がある。もし社民党が連立を解消すれば、鳩山政権は参議院で少数与党に転落し、苦しい政権運営を強いられる。
しかし、社民党がその切り札を切れるのは1度だけ。それに、政権基盤が弱まった鳩山政権が衆議院の解散総選挙に追い込まれる事態になった場合に、社民党に選挙で勝算があるとは思えない。
そもそも社民党にとって、連立を離脱することにどんなメリットがあるのか。
現在、福島瑞穂党首が入閣しているおかげで、社民党は国政に対する一定の発言権を確保できている。連立を解消したり、閣外協力に転じたりすれば、影響力が弱まることは目に見えている(その悲哀は、自民党がいま味わっている)。連立与党内で社民党が大きな力を持っているように見えるかもしれないが、その立場は見掛けより弱い(その点では国民新党も同じだ)。
鳩山政権は普天間問題の扱いを誤った。しかし、鳩山首相と閣僚たちがこの経験から学習して、次はもう少し賢く振る舞える可能性はある。
[日本時間2009年12月11日(金)06時07分更新]
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