コラム

新味なき鳩山所信表明の新味

2009年10月28日(水)17時13分

 鳩山新政権にとって初の国会となる第173臨時国会が10月26日、鳩山由紀夫首相の所信表明演説で幕を開けた。民主党議員が圧倒的多数を占める議場で、鳩山は「無血の平成維新」を宣言。黒船や敗戦による圧力がないなかで変革を断行すると語った。

 演説の中身は聞きなれた話ばかりだ。鳩山はまず、民主党が選挙中から訴えてきた「政権交代」(今回の演説では「戦後行政の大掃除」という表現を使った)と「国民の生活を守る政治」の理念をあらためて表明。政策決定プロセスを見直し、官僚依存の仕組みを変える計画を説明し、カネの使い道を「コンクリートから人へ」シフトするとも語った。

 外交では、日本が国際社会の「架け橋」になるという主張がまたも登場した。「対等」な日米関係を築くという主張も繰り返し、温暖化対策や核不拡散などのグローバルな課題で日本が指導力を発揮するとした。言いかえれば、在日米軍の移転問題のような安全保障以外の分野で、アメリカと対等の関係をめざすという意味だ。

■「指揮者」に徹して閣内をまとめる

 鳩山政権がめざす政治の姿についても目新しい話はほとんどなかったが、鳩山がどんなタイプの首相になろうとしているのかというビジョンは浮かび上がってきた。

 組閣が発表された9月半ばに私が書いたように、鳩山は重量級の閣僚をそろえた内閣において「大統領というより委員会の議長」をめざしているようにみえる。そして、数人の重要閣僚を「閣内内閣」として重用している。

 朝日新聞が新政権の特徴として挙げたように、鳩山内閣ではまず閣僚が問題を提起してメディアの反応を伺う。そのうえで鳩山は、副総理兼国家戦略担当相の菅直人と官房長官の平野博文、行政刷新担当大臣の仙石由人と相談しながら、どの政策を追認するか決定する。目下、来年度予算の概算要求を大幅削減するという試練が待ち受けているが、こうした政策決定の基本パターンが変わる可能性は低いと思う。

 鳩山は自身を「指揮者のような」首相と呼んでいる。彼が率いるオーケストラは亀井静香が加わるととくに不協和音を奏でることもある。だが、諸問題について閣僚がオープンに意見を戦わせるアプローチは、官僚が秘密裏に議論する方法より健全だ。もちろん、鳩山流で本当に政策を実現できるのかについてはまだ未知数だが。

 指揮者としての鳩山は今後も、政策については腹立たしいほど曖昧な演説を繰り返すだろう。だが彼のスピーチには、ほかの閣僚や民主党の議員たち、そしてすべての国民に政権の使命を思い起こさせる力がある。

 ゆっくりと、しかし確実に、鳩山政権の新しい政治の形が見え始めてきた。

[日本時間2009年10月27日(火)11時13分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

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