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コラム
トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
内閣の守護神に徹する小沢一郎
10月11日に開かれた民主党大阪府連大会で、平野博文官房長官は役職に就いていない一般の国会議員の役目を簡潔にこう表現した。「与党議員はあまり国会で質問する必要はない」。そして彼は、新人議員は選挙区の地盤固めに集中すべきだとも述べた。
これぞ日本の新しいイギリス型議会民主主義だ。このシステムにおける与党の一般議員の役割は――日本政治の抱える大きな問題は一般の議員に政策立案の力がないことだというポール・スカリスとデビン・スチュワートの主張とは異なり――登院して所属政党(つまり内閣)の求めるとおりに票を投じることだ。
平野の発言は、民主党の小沢一郎幹事長が主張している国会改革案と軌を一にしている。9月、イギリスでの視察から戻った小沢は、議員同士の審議の活性化を目指して国会法を改正し、官僚の答弁を禁じるという案をぶち上げた(この改正案では小沢が長年、目の敵にしてきた内閣法制局長官の国会答弁も禁じられる)。
小沢はまた、議員が複数の常任・特別委員会を掛け持ちして時間を取られることを防ぎ、特定分野の政策に集中できるよう、委員会の定員を削減すべきだとしている。それから、政府の政策を議員たちに明確に説明するために、閣僚と各省の副大臣には委員会審議への出席を求めている。
■一極集中支配は何のため
小沢は6日、国会法の改正案について話し合うため、連立相手である社民党と国民新党の幹事長と会談した。だが社民党は改正の必要性に懐疑的な立場だ。平野官房長官と民主党の山岡賢次国対委員長との話し合いの後、国会法改正案の提出は今月26日に召集予定の臨時国会ではなく、来年の通常国会に持ち越される見込みとなった。
一方で小沢は民主党幹部の支配を強め、政策決定のプロセスから与党3党を締め出そうと動いている。小沢がいわゆる「小沢チルドレン」から民主党の最大派閥となる「小沢派」を作りだそうとしているのではとの懸念は、民主党や国会への小沢支配の強化に対する不満に変化しつつある。
小沢が7日に党執行部の人事を発表すると、やはり批判が巻き起こった。代表代行や副代表といったポストをなくし、自分と輿石東幹事長代行(参院議員会長で、近年小沢との距離を縮めているいう)の下で一極集中体制を作り上げたことが原因だった(批判しているのが保守系メディアなのか、それとも民主党内の匿名の批判分子なのかははっきりしていない)。
今回の人事で党役員に指名された議員をみると、衆議院より参議院のほうが多かった(毎日新聞によれば10人中6人。これは政府の政策を実行に移せるかどうかを握っているのは参議院だという単純な理由によるものかも知れない。
■内閣の障害物をどけるブルドーザー
小沢は党内のグループ間の力関係には無頓着で、過去に自分に逆らったグループの人間は起用しなかった。枝野幸男が閣僚ポストも党役員のポストも得られなかったのがいい例だ。
小沢はまた、新人議員の「政策力」を鍛えるどころか彼らを永田町に置いておきたくないようだ。小沢チルドレンが企画した同期会は中止となり、小沢は「一年生の仕事は次の選挙で勝つことだ」と言い、新人議員らに地元での政治活動に重点を置くように命じたのだ。
小沢を恐れなければならないのは民主党の1年生議員だけではない。与党3党の幹事長会談で社民党は、連立与党内の政策調整を図るための定期的な会合を開くべきだと主張。だが小沢は、社民党と国民新党の党首は閣僚として基本政策閣僚委員会に参加しているのだから、幹事長会談などよくて役立たず、悪くすれば政府に害をなすとして応じなかった。
小沢の幹事長就任をめぐってささやかれた懸念は、鳩山内閣成立から1カ月を経てその多くが杞憂に過ぎなかったようだ。民主党が政権を取る前から垣間見えていたように、小沢は自分の職務を「与党と議会が内閣の政策実行の障害にならないようにすること」だと心得ている。
小沢はこれまでおおむね(少なくとも公の場では)政策に関する質問には沈黙を守ってきた。そしてあらゆる機会を捉えては内閣の統治能力を高める重要性を説いてきた。政府に命令を下すどころか、小沢は今のところ、鳩山内閣にとことん忠実だ。
「小沢チルドレンが民主党における『田中派』のような存在になる」と主張した小沢に批判的な人々は、遅かれ早かれ彼の意図について誤解していたことを認めざるを得なくなるだろう。
「内閣と与党・国会をつなぐ留め金」という小沢の役割は非常に重要だ。だが結局のところ、彼は内閣の力を削ぐのではなく、その強化のために働いている。
[日本時間2009年10月12日(月)08時07分更新]
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