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コラム
トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
しゃべり過ぎ民主党の対米政策
衆議院選挙の全立候補者を対象に毎日新聞が行なったアンケートを見て興味深かったのは、そこから見えてくる民主党という政党の姿だ。
民主党は党内での意見の食い違いが大きく、総選挙で大勝したところで内部分裂によって政権運営に行き詰まるだろうとよく言われる。毎日新聞のアンケートからは、こうした見方とは違った民主党の顔が見えてくる。
憲法改正問題をみてみよう。改憲そのものについては民主党候補者の過半数が意義を認める一方で、9条の改正に賛成するのは20%に過ぎない。集団的自衛権の行使を禁じた政府の憲法解釈を見直すべきだと答えたのは、それより少し多い25%。自衛隊のアフガニスタン派遣に賛成したのは15%ほどだった。
日本外交のあり方については過半数を大きく上回る62%がアジアに比重を移すべきだと答えたのに対し、日米同盟を最重視するべきだと考えたのは18%に過ぎなかった。ちなみに内政についてはさらに足並みがそろっている。
■足並みそろえて「暴走」の危険
こうした党内事情がもたらす危険性とは、身動きが取れなくなることではなくその逆だ。足並みがそろうことにより、党の上層部はかえって無謀な路線を歩む可能性がある。
これは日本外交にとって何を意味するのだろう? 民主党政権は、一部の米専門家が考えるよりも強気でアメリカに異を唱えるようになるかもしれない。
たとえば普天間飛行場の名護市辺野古への移設案について、民主党は白紙撤回をあくまで求めていこうとする様子がみられる。毎日新聞のアンケートには、沖縄海兵隊のグアム移転と普天間移設を柱とする在日米軍の再編に関する設問は含まれていない。
だが現行の再編案に反対という点では民主党内はかなり足並みがそろっているのではないかと私は思う。日米同盟を重視するタカ派も、再編をめぐる日米合意には懐疑的な見方をしているからだ。
民主党の菅直人代表代行は沖縄で(外交政策に関する民主党のいちばん過激な発言はたいてい沖縄で行なわれる)24日、9月に新首相とオバマ米大統領が会談する「可能性が高い」と述べた。「新首相」とオバマが腹を割って話せる関係が必要だと菅は言う。
率直な関係(『友愛』を築くということだろう)を求めるのはけっこうだが、果たしてそれだけでいいのだろうか? 私は事務レベルで沖縄関連の対日交渉に携わっている米当局者から話を聞く機会が多いが、鳩山の心からのお願いが米政府から大歓迎されるとはとても思えない。
率直な話し合いをすべきでないと言うつもりはない。在日米軍の再編案にはさまざまな問題点が浮上してきている。
たとえば10年度の米国防予算法案の修正案は深刻な問題だ。再編に関連する建設作業に外国人労働者を使ってはならず、建築労働者の給料はハワイ並みの水準に引き上げなければならないという内容で、もしこの修正案が通れば100億ドルとされる海兵隊のグアムへの移転費用は倍増するかもしれない。
■オバマなら説得できるとでも?
落としどころは別にあるのではないか。週刊東洋経済のピーター・エニス記者は、全米アジア研究所のウェブサイトの日米問題会議室に書いている。普天間にある海兵隊のヘリコプターを嘉手納の空軍基地に移せばいいと。
民主党はこれまで普天間飛行場の県外移設を主張してきたが、嘉手納への統合案で妥協する可能性もあると私は思う。だがこれには民主党執行部の強いリーダーシップが必要だ。
菅が沖縄滞在中に言及した日米問題は他にもある。菅はアメリカとの密約、特に日本政府との事前協議なしに米軍が核兵器を持ち込むことを認めた日米間の秘密合意をめぐって外務省を批判。鳩山はこの問題でも、解決に必要なのはオバマとの率直な対話だとの姿勢だ。まるで、オバマを説得すればアメリカの政策を非核三原則に合わせて変えてもらえると思い込んでいるかのようだ。
その一方で鳩山は、アメリカの核の傘は「やむをえない」と発言している。7月には、現状に合わせて非核三原則を見直す用意があることを示唆した。この立場は評価できると私は思った。
ともあれ民主党の幹部たちはしゃべりすぎだ。こうした問題でどのようにアメリカにアプローチすべきかなんて、選挙に勝って組閣してから決めればいいものを。鳩山や民主党幹部がこの調子でしゃべり続ければ、党の信用を損なうばかり。政策はすでに固まっているという印象を与えれば、政権を取った後に撤回しなければならない事態を増やすだけだ。
[日本時間2009年08月25日(火)16時22分更新]
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