コラム

アメリカのシンクタンクが世界を動かす力を持つ理由

2019年11月14日(木)17時35分

ホワイトハウスの北側に大使館とシンクタンクが立ち並ぶ一角が CAROL M. HIGHSMITH-BUYENLARGE/GETTY IMAGES

<第1次大戦後から今日まで、ホワイトハウスと米議会のブレーンとして絶大な力を振るってきた民間政策集団であるシンクタンク。いつ、どのように生まれたのか。どんな力を持つのか。本誌「シンクタンク大研究」特集より>

20191119issue_cover200.jpg首都ワシントンの中心部からマサチューセッツ通りに車を走らせ、海軍天文台内にある副大統領公邸の方に向かうと、最初のうちは通り沿いに7階から10階建てのビルが並んでいる。第二次大戦後のアメリカの機能主義をうかがわせる建物群で、政府機関の入る壮麗な建物と比べると、いささか殺風景なたたずまいだ。

やがて車窓には威風堂々たる大邸宅が見えてくる。南北戦争後のいわゆる「金ぴか時代」に富豪たちが暮らした邸宅で、今では各国の大使館が入居している。そう、この辺りが有名な「大使館通り」だ。

実はマサチューセッツ通りは「シンクタンク通り」の異名も持つ。機能主義的なビルや広壮な邸宅には、カーネギー国際平和財団やブルッキングス研究所などワシントンの最も影響力ある非政府機関も入居しているからだ。

これらの機関は政府機関と入り組んだ共生関係を築き、互いに熾烈な競争を繰り広げつつ、米政府の政策とアメリカの世論形成に絶大な力を振るっている。戦争と平和から税率や生死まで、あらゆる事柄に影響力を行使しているのだ。

今やシンクタンクは世界中で公共政策の形成に不可欠な存在だが、もとはといえば、いかにもアメリカ的な価値観や理念の産物だ。すなわちカネ、理想主義、徹底した現実主義、そして政府よりも個人が社会の問題を解決すべきだという信念である。

「泥棒男爵」がつくった組織

シンクタンクはまた、鉄鋼や鉄道など巨大産業の産物でもある。アメリカの産業革命は金ぴか時代の大富豪たち、いわゆる「泥棒男爵」を生んだ。シンクタンク通りの大邸宅に暮らしていたのは彼らだ。この時代に蓄積された富のおかげで、19世紀後半にアメリカは世界の列強に仲間入りし、米政府は国際社会で大きな発言力を持つようになった。

しかし19世紀前半にアメリカを旅したフランスの政治思想家アレクシス・ド・トクビルがいち早く見抜いていたように、アメリカ人は社会問題を政府の施策ではなく、民間のイニシアチブで解決しようとする。

magSR191114_ThinkTanks2.jpg

鉄鋼王アンドルー・カーネギーは国際平和財団創設の目的を管財人宛ての手紙にしたためた HULTON-DEUTSCH COLLECTION-CORBIS/GETTY IMAGES

1910年、当時世界一の富豪だったアンドルー・カーネギーがアメリカで最初のシンクタンクを設立したのもそのためだ。「余剰の富は社会を豊かにするために使う」べきと考えていた彼は、知識を広め、教育を振興すべく全米に1700近い図書館を設立。マサチューセッツ通りにシンクタンクを創設した。

その6年後、カーネギーの友人で、やはり理想に燃える大富豪のロバート・ブルッキングスも自分の名を冠したブルッキングス研究所を設立。今やこの研究所は世界で最も影響力を持つシンクタンクになっている。

magSR191112thinktank-chart1.png

11月19日号「世界を操る政策集団 シンクタンク大研究」特集20ページより

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

MSCI、仮想通貨保有企業の指数除外見送り 検討継

ビジネス

中国、銀行の不良債権一括処理プログラムを年末まで延

ビジネス

アングル:金利上昇局面の日本株、長期金利3.5%で

ビジネス

日経平均は反落、高値警戒感や日中関係悪化で利益確定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 8
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 9
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 10
    砂漠化率77%...中国の「最新技術」はモンゴルの遊牧…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story