コラム

やはり移民しか日本を救う道なし

2021年06月29日(火)14時47分
サラリーマン通勤風景イメージ

保守派の移民反対論には誤りも多い oluolu3-iStock.

<最新の国勢調査結果によると、日本の人口は大幅に減り、世界の上位10位から転落した。このままでは日本は衰退する>

6月25日、国勢調査の速報値が公表された。その結果、日本の総人口は約1億2622万人で、5年前の前回調査(2015年)よりも86.8万人減少してその減少率は-0.7%(5年)となった。人口の世界順位は前回が世界10位だったものの、今次はメキシコに抜かれ順位を1つ下げ、世界11位となった。ついに世界上位人口10位以内から陥落した格好となる。

この現象には死亡数(大)から出生数(小)を引いた自然減が大きく寄与し、それに対して定住外国人が大幅に増えたことで何とか減少幅が5年前より少しだけ縮まった格好である。政令指定都市一個分の人口が5年で消えていく。私は慄然として肌に粟が立つのを感じる。

人口が減っても一人頭の生産性を高めれば問題はないという人がいる。私からすれば笑止千万の屁理屈・強がりである。生産性はそう簡単に上昇しない。かつて日本経済は二重構造と言われた。造船・鉄鋼・自動車などの進んだ産業は西側並みの生産性を誇っているのに、大都市・郡部・小都市・農村地帯における中小零細企業や農家は戦前とほぼ変わらない低生産や劣悪な設備・労働環境しかない。

国力は「人口×生産力」で決まる

この構造は「経済の二重構造」と呼ばれ、高度成長期にことさら問題になった。池田勇人の時代、日本経済はこれをして「田んぼの鶴」と呼ばれた。上半身はハッとする程美しいのに、下半身は泥濘に浸かって土に汚れていることからそう呼ばれた。まさに二重構造である。日本経済はこの問題を解決するのに約30年かかった。いかにAIが発達した現在でも、生産性が人口減を補う速度で、たった数年のうちで向上するなどというのは机上の空論である。

国力は、人口×生産力で決まる。経済学の基礎だ。日本は人口が多すぎるから至って少なくなった方が良いというのは危うい抗弁だ。先進諸国の中で、アメリカだけが潜在成長率が著しく高いのは単に人口増加のせいである。アメリカはもはや3億3000万人を有する人口大国だ。アメリカでは特にヒスパニック系の人口増加が著しく、それが消費と旺盛な住宅需要をけん引している。この人口増加が、アメリカ経済を底支えしているのだ。

日本ではイデオロギーの左右を問わず、移民アレルギーが多い。実際に日本は、技能実習生という名目で事実上、海外からの安い労働力に依存している。しかし技能実習生制度は、「いつかは祖国に帰ってもらう」体で始まった、上から目線の欺瞞措置にすぎない。法的に移民と認められていないばかりに、彼らの労働環境や人権状況は言うまでもなく劣悪なものが多い。日本は正式に移民を認め、東南アジアから大量の移民を招聘して人口減に歯止めをかけるべきだ。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

バイナンス、共同創業者イー・ハー氏とテン氏の二重指

ビジネス

英HSBC、ネルソン暫定会長が正式に会長就任 異例

ワールド

ハマスが2日に引き渡した遺体、人質のものではない=

ワールド

トランプ氏が台湾保証実施法案に署名、台湾が謝意 中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 8
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 9
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 10
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story