コラム

アイヌ差別表現問題──日本人は他民族を侵略・加害していない、という観念が背景に

2021年03月19日(金)17時00分

これは幕藩体制以後、日本がまさに日本史学用語でいうところの「内国植民地」化した、琉球とアイヌ民族(北海道)にすっぽりと当てはまる。しかし琉球も北海道も、1945年のポツダム宣言、および1952年のサンフランシスコ講和条約においても明治以降約1世紀の完全統治と同化が認められた格好になり日本固有の領土とされたので、北海道民を筆頭に、日本人の多くが、「私たちの先祖がかつて侵略した土地に自分たちが住んでいる」という観念をもっていない

私はもう「開拓」という言葉は使わない

筆者の母方の祖先は明治時代に、東北地方から北海道東部の十勝に入植した所謂「開拓農家」の家系で、現在でも帯広市内に広大な畑作農地を保有している。父方の祖先は同じく明治期に北陸地方から空知(そらち)地方に移住し、戦後は夕張の炭鉱街の旺盛な住宅需要で一儲けした建設関係の家系だ。現在、札幌市の人口は世界的に見ても約200万人を誇る巨大都市であるが、戦後の高度成長時代に札幌市が支店経済の性格を持った時期に、内地から移住してきた人々が多い。

それに比べて筆者は、父・母両方の家系が日露戦争以前に北海道に「入植」したという自負から、ある時期まで「生粋の道産子」であることを誇りに思っていた。自分は「北海道開拓民」の正当なる子孫として、フロンティア精神に燃えた開拓者の血脈を継ぐことが少し自慢であった。しかし大学に入り、本格的に日本史を学ぶにつれ、如何に日本人が他民族を侵略し、加害し、その結果として現在の北海道や琉球が存在するのか、という史実を思い知らされる時、その自慢は「後ろめたさ」に替わった

むろん、筆者は北海道「開拓」の第一世代でもなければ、アイヌを迫害した張本人でもない。しかし、北海道に「入植」した家系の子孫として、アイヌ民族に対しては現在でも贖罪の気持ちがあり、であるからこそ爾来「私は北海道開拓をした誇らしい祖先を持つ」などとは口が裂けても言わないし、自分の書籍や原稿その他では絶対に書かないことにしている。日本人から見れば寒冷地の困難に耐え、大都市を建設した苦労人の子孫だが、アイヌ民族から見れば筆者はれっきとした侵略者の末裔なのだから

このような「日本人は他民族を侵略・加害していない」という歪んだ歴史認識が、北海道民にすら根強くあるからこそ、今次の日本テレビにおけるアイヌ問題表現は起こるべくして起こったのだ

日本人は他民族を侵略・加害・服属させて現在の領土を獲得したのである、という認識が日本人全体に徹底して共有されないかぎり、今次のアイヌ問題表現は、また近い将来のいつの日にか、別の形となって、何食わぬ顔で噴出するだろう。そこには歴史への無知があり、その無知がなまじむき出しの悪意を伴っている訳ではないからこそ、なおさら罪深いと言える。

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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