コラム

「ウイグル話法」とは何か?──リベラルは中国に甘い、という誤解

2021年03月02日(火)11時10分

実はこの認識自体、事実とは真逆であり全くの誤解なのである。少なくとも現在日本の国政政党に於いて、最も中国のウイグル問題を批判してきたのは、かつて「革新政党」と呼ばれた日本共産党である。

日本共産党の辛辣すぎる中国批判

日本共産党は、2020年1月28日、第28回党大会で党綱領を改訂した。党綱領改定は実に16年ぶりの出来事であった。この中で、従来日本共産党は中国を「社会主義をめざす新しい探究が開始された国」としていたがこの部分を削除し、「いくつかの大国で強まっている大国主義・覇権主義は、世界の平和と進歩への逆流となっている」と挿入して中国共産党への批判を強めた

この中国認識の転換の理由として、日本共産党は東・南シナ海における中国の覇権主義的行動のエスカレート、香港における人権侵害およびウイグル自治区における人権弾圧をあげた。

この党綱領改定に前後しての志位委員長の演説は、徹底的な中国批判で埋め尽くされている。


我が党は1960年代以降、ソ連と中国という「社会主義」を名乗る2つの国からの激しい覇権主義的な干渉攻撃を受け、それを断固として拒否し、自主独立の路線を守り、発展させてきました。ソ連によるチェコスロバキアやアフガニスタン侵略などを厳しく批判する闘いを展開した。中国指導部による「文化大革命」や「天安門事件」などの民主主義抑圧の暴圧に対しても、最も厳しい批判を行ってきました。今回の綱領一部改定案は、中国に現れた大国主義、覇権主義、人権侵害を深く分析し、「社会主義を目指す新しい探求を開始」した国とみなす根拠はもはやない、という判断を行いました。

中国の党は「社会主義」「共産党」を名乗っていますが、その大国主義、覇権主義、人権侵害の行動は「社会主義」とは無縁であり、「共産党」の名に値しません。中国に現れた大国主義・覇権主義は世界にとってもはや座視するわけにはいかない重大性を持っています。にも拘らず、その誤りに対する国際的な批判が全体として弱い。特に日本政府は全く弱く、追従的である。(日本共産党、志位委員長演説,2020年1月14日,強調筆者)

要するに「中国共産党など、共産党ですらない。単なる帝国主義国家」と言っている訳だが、ここまで徹底的な中国共産党批判を公にする国政政党は、現在のところ日本共産党以外見当たらない。つまりウイグル話法の話者は、日本の革新勢力や進歩派こそが、もっとも辛辣な中国共産党批判者であるという事実について、無知なのである。

このようにウイグル批判についての実態は、自民党などの保守政党が中国との経済交流等に配慮してむしろ低調であり、もっとも最右翼であるのは日本共産党を筆頭とする進歩系勢力である。よってウイグル話法の前提である、"進歩派やリベラルは人権を叫ぶくせに、世界最大級の人権問題のひとつであるウイグル問題については無知・無理解・無批判である"というのは、実際には事実と真逆なのである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「人生で最高の栄誉の一つ」、異例の2度目

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story