コラム

定数削減はポピュリズムだ

2023年05月10日(水)11時24分

あなたの声を代弁してくれる議員はこの中にいますか(2022年6月21日、参院選前の党首討論)David Mareuil/ REUTERS

<議員定数削減を「維新の真骨頂」と誇る維新の下、大阪府の議員定数は10年前から30も減っている。これは本当にいいことなのか。有権者の復讐なのではないか>

先の統一地方選挙で大阪市議会の過半数を獲得した大阪維新の会が、公約にあった市議会の定数を81から10程度削減する条例を直ちに提出するという方針を打ち出している。大阪府・大阪市では維新の会が10年以上政治の主導権を握ってきており、議員定数は府議会、市議会で削減され続けてきた。今回の大阪府議選の定数は79で、10年前からは30も議席が削減されている。

国政政党としての日本維新の会も、国会議員の定数削減を「身を切る改革」の柱として掲げている。しかし、この議員定数削減という「改革」は正しいのだろうか。むしろ有権者数に対する議員の数が減ることによって、代議制という民意を政治に届けるシステムが機能不全に陥るのではないだろうか。

議員定数削減の意義はあるのか?

国会議員や地方議会議員の定数削減は、果たして今の日本で積極的に行う必要があるのだろうか。国の規模や地方自治制度、議会の役割が異なるので単純比較はできないが、国政に関していえば、日本は人口1億2000万人に対して議員数は衆参合わせて約700人であるが、イギリスは人口6000万人に対して下院650人、ドイツは人口8000万人に対して連邦議会約700人、フランスは人口7000万人に対して国民議会577人であり、一人当たりの議員数が日本よりも多い国は多数ある。諸外国に比べて日本の議員数が多すぎるとはいえないのだ。

議員を減らすメリットは、議論や調整の時間が短くなることによって政治的決断が速くなることや、議員にかかる歳費や手当てを削減できることだといわれる。しかし議員にかかる金銭的コストは国や地方の予算の中でささやかな一部を占めるにすぎず、コストカットの効果は少ない。議会制民主主義において議員の数およびその役割を十分に全うさせるための費用は必要だ。そうしたものを特権扱いして安直な人件費カットを求めるより、もっと先に解決するべき問題はいくらでもある。

また、国会議員であれ地方議員であれ、議員は市民の代表であり、多ければ多いほど様々な意見を政治に反映することができる。もちろん意見の多様性が議会に反映されればされるほど一致点を見つけるのは難しくなる。しかしそれならば独裁が良いということなのか。時間がかかっても話し合うべきことを話し合うのが民主主義のコストに他ならない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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