コラム

ドイツの新連立政権にあって日本にないのは国民生活へのリスペクト

2021年11月27日(土)20時10分

結局、新政権の政策には、SPDが主張する最低賃金のアップや緑の党が主張する脱石炭エネルギーを前倒しして2030年までを努力目標とすることなどが盛り込まれたが、FDPが主張する新たな増税の禁止や財政規律の遵守も盛り込まれた。また財務相ポストもFDPが抑えている。そのため新政権は政策実行のための財源確保に苦慮することとなるだろう。基金の設立による民間資金の活用などが提案されているが、もし財源の問題によって約束した政策が実行できなかった場合、支持率の低下などの政権の不安定化を招くことになるだろう。

失業政策の改革はできるのか

新政権の目玉政策の一つに「ハルツⅣ」の改革がある。これはSPDと緑の党の連立政権であったシュレーダー政権の時代に行われた改革で、失業保障の条件を切り下げることによって就労への意欲を促すというものだった。結果として失業率は改善されたものの、就労支援よりもとにかく仕事に就かせることを優先した結果、いつまでもキャリアアップできない労働者を多数生むことになるなどの弊害もあった。弱者支援を切り詰めたことはSPDの人気低下の原因の一つとされ、党内では改革の見直しを求める声が長らくあった。

ショルツ政権は、この「ハルツⅣ」を見直し、「市民所得(Bügergeld)」の導入を行うとしている。これによって従来の制度に比べて、一人ひとりの個人の実情に配慮した生活・就労の支援が行われるというが、給付金額などについての具体的な数字は連立合意書には盛り込まれていない。それはやはり今後の財源や協議の制約を受けることになる。

試されるショルツ首相の力量

しかし、そもそも不安要素がない連立政権はない。連立政権とは妥協の産物に他ならず、どの党も完全に満足できるもではない。従って、それぞれの党は不満が蓄積した支持層を爆弾のように抱えることになる。そうした支持層を抑えられるかは、それぞれの党首の力量にかかっている。

政権が不安定化したときに、ショルツ首相がリーダーシップを発揮できるかは未知数だ。元々ショルツは首相候補としては地味だとみなされていた。CDUのラシェットが災害の被災地を視察に訪れたとき談笑していたということで批判を浴びたため、また緑の党のベアボックも政治的力量が不安視されたため、消去法的にショルツの堅実さが評価されたという経緯がある。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ホワイトハウス、人種差別的な動画投稿を削除 オバ

ビジネス

ジェファーソンFRB副議長、26年見通し「慎重なが

ビジネス

SF連銀総裁「米経済は不安定」、雇用情勢の急変リス

ワールド

12年のリビア米領事館襲撃の容疑者を逮捕=司法長官
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story