コラム

東京五輪の「国際公約化」は日本政府の自作自演

2021年06月21日(月)10時11分

増税反対論が国内に巻き起こる中で、安倍政権が行った言い訳のひとつが、消費税増税は「国際公約」だとするものだった。2011年に民主党野田政権が、G20で消費税を増税することを表明した。これによって消費税増税は「国際公約」となったのであって、日本の信用を落とさないためには消費税増税を行わなければならなかったというのだ。

しかし少し考えれば分かることだが、当時の世界で、日本の消費税が上がるかどうかを注視していた国はどれだけあったというのだろうか?基本的に租税体系をどのようなものにするかは(いわゆるタックス・ヘイブン問題などは除外するとして)各国の国内問題であって、国際社会がどうというものでもない。この場合の「国際公約」とは、正当性に乏しい政策を国内で進めるための理由付けに持ち出されているにすぎない。

野田政権は、消費税増税は「国際公約」だと主張することで、自身の不人気政策を押し通そうとした。安倍政権は、「国際公約」を理由に、止めようと思えば止められたはずの消費税増税に対する自公政権の責任を回避しようとした。大手メディアはこの詐術を強く追及しなかった。このことによって「国際公約」にしてしまえばどんな政策でも「もう決まったことだから」と従わせることができるという成功体験を与えてしまったのだ。

「国際公約」の精神論化

日本以外の国が、オリンピックの「安心・安全な形で」の開催に賛成するのは当然だ。「安心・安全」を保証しなければならないのは日本政府の義務だからだ。しかも、仮にオリンピック開催で感染者数が増えても、そのリスクを負うのは日本だけなのだ。

その反対に、もし日本政府が中止を宣言しても、オリンピックの強行開催を迫る国が出てくるとは考えにくい。そうなると、オリンピックに伴う感染者増は、その国の責任となってしまう。そのリスクをわざわざ取ってまで、オリンピック開催にこだわる国があるだろうか。

オリンピックは「国際公約」だから絶対に開催しなければならないという議論は、日本政府が勝手に約束して勝手に持ち帰ってきた自作自演にすぎない。しかしこうした自作自演の茶番劇に、専門家会議まで従わされているのだ。

オリンピックを開催できるか否かの判断は、新型コロナウイルスの感染状況という現実を踏まえて決定されるべきだ。しかし「国際公約」の物語は、「信義を守る日本人」というナショナリズム的心情を動員することによって、それを精神論へとすり替えてしまう。たとえば、日本人は「多少の(「さざ波」のような!)リスクを負ってでも」オリンピックを開催し、世界に国威を発揚するのだ、という主張が支持されてしまえば、感染者数や死亡者数がここからまた増えたとしても、それは「国際公約」を守るための「やむをえない犠牲」として処理されてしまうかもしれない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ボーイング、「737」生産ライン今夏に追加へ

ビジネス

中国1月CPIは0.2%上昇、PPIは下落率縮小

ビジネス

米アルファベット、ポンド建て100年債発行 IT業

ワールド

米ミネソタ州知事、トランプ政権の移民取り締まり「数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story